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世界が一つになって、良いことも少しはあった。失われた古代の音曲をこの耳で聴ける、というのもその一つだろう。
もっと古臭い曲調だと思っていた。だが、こうして実際に聴いてみると、昨今の騒々しい流行歌よりよほど胸に迫ってくる。
(左近も少しは見習うべきだな)
石田三成はすぐに、蛇皮線を騒々しくかき鳴らす家臣を思い浮かべた。
彼のために二胡を奏でているのは、肌もあらわな衣装に身を包んだ舞姫である。かつて彼女は、後漢末最強の男の傍らにいた。
古志城決戦の後、その舞姫・貂蝉を三成は保護していた。決して多くない禄の中から、彼女に住む家を与えてまで。
『治部少輔は女の色気にやられて、囲っているのさ』
そう陰口を叩かれるのは百も承知であり、気にもならない。そもそも、貂蝉をそこいらの遊女と同列に扱うのが間違っている。彼女は舞や音楽など、古代中国文化の生きた見本と言ってもいい。これからの世のため、簡単にいなくなってもらうわけにはいかなかった。
やがて部屋に流れていた緩やかな旋律が、静かに終わりを迎えた。貂蝉は二胡を脇に置くと、三成に深々と頭を下げた。
「以上でございます。いかがでしたでしょうか、今宵の曲は」
そこで普通に褒めればいいのに、
「……十分な比較検討もせず『いい曲だった』などと言われて嬉しいか? 貴様の音曲はそんなに薄っぺらなものだとはな」
三成は早口でまくし立て、相手の目を見ようとしない。相変わらず人を褒めるのが苦手な男である。
そのあたりは貂蝉も承知しているらしい。口元に手を当て、くすりと笑みを漏らした。
「フン」
三成は髪をくしゃくしゃかきながら、立ち上がった。
「後で文を送る。必ずだ。ではな……おい、何をしている」
その胸に、貂蝉がもたれかかっていた。腕の中の舞姫は甘く囁く。
「まだ、お教えすることが――ございますよ?」
「今夜はこれで十分だ。他に教わることなど……」
ない、と言えなかった。これが他の女なら、うっとおしいと突き放していただろうに。
『今の私には貴方しかいない』そう訴えかけるような瞳と、くらくらするような甘い香りが、三成を絡め取っていく。
「あまり明るいと、恥ずかしゅうございます」
貂蝉が、視線を部屋の隅の燭台にやる。それを消したら、承諾したことに他ならない。三成の理性が試されていた。
灯りを消した部屋の中で、男女の秘めやかな息遣いだけが聞こえている。結局、三成は自分に負けた。
椅子に腰かけた三成の足元に、貂蝉はひざまずいていた。か細い指で、まず太腿の辺りからなぞっていく。いきなり核心に行かず、焦らすあたりが小憎らしい。
袴を脱ぎ捨て、下帯をほどいた自分の姿を、三成は心底無様だと感じていた。女の手一つで身体を震わせ喘いでしまうのは、さらに情けない。
「くっ……この、俺がっ……はおおっ」
「まぁ。そのように乱れていただけると、わたくしも嬉しい……では、参りますね」
途端に、温かくぬめった感触が三成の陽物を包み込んだ。ざらつく小さな舌が竿の先から根元までまんべんなくつつき、絡みつく。さらに舌を動かしながら強烈に吸引されると、自分の逸物が蕩けてしまいそうだった。
艶やかな黒髪を手ですいてやろうとしたが、軽く撫でる程度しかできない。意識が男根の方にばかり行ってしまう。
もがく三成に気付いて、貂蝉が奉仕しながら途切れ途切れに語りかけてくる。
「んむっ……よいのです。貴方は、ちゅばっ、わたくしの与える快楽に集中してくだされば」
「いや、貴様にばかりやらせるのは……俺の本意ではない、う、ううっ」
有無を言わせず口淫は続く。発射寸前となったところで、ヌメヌメと唾液の糸を引きながら、貂蝉はようやく口を離した。
「よろしいのですか? 気持ち良さそうな三成様を見ていたら、わたくしも……」
貂蝉はやおら立ち上がり、三成を見下ろして唇を舐めた。
腰に巻かれた大きな薄布の中に手を入れ、両膝を交互に曲げる。立ったまま、器用に下着を下ろしているのだ。その一部始終を、三成は穴が開くほど見つめていた。足首から抜き取ったそれを、貂蝉は手で広げてみせる。
「うふふ……」
淫靡に笑いながら、それを床に打ち捨て、くるりと背を向ける。文机に手をつき、腰を高く上げた。肝心の部分は布の向こうで、まったく見せようとしない。そうされると、男にも意地というものが出てくる。
前戯もすっとばして、三成は腰布の中に手を突っ込んだ。手探りで秘部にたどりつくと指を這わせてみる。すでに、やけに潤沢であった。
「本当に、準備万端といったところか。俺は何もしていないのだがな」
「い、言わないでくださいまし」
貂蝉は黒髪を振り乱して恥じらった。本当は自分で濡らす手立てなどいくらでもある。
腰布を大きくまくり上げ、すっかり硬く膨張していた肉棒をあてがう。さすがに某友人たちのように、未経験ではない。肉の狭間にめり込んだのを感じると、三成は一気に腰を進めた。
闇の中、華奢な女体が大きくのけぞった。
「あっ、あぁん! 素敵ですっ! こんなの、久しぶりでっ、きゃう、あひいっ」
口淫以上の潤いと、口淫とは比較にならない密着度で、貂蝉の中は三成を歓待している。その中を抗いようもなく前後に掘削しながら、彼はあることに気付いた。
貂蝉は激しくあえぎながら、決して自分の名を呼ばない。振り向こうともしない。
彼女の視線の先には誰がいるのか。それを考えだすと、死んだ人間相手にどうしようもない嫉妬が沸いてくる。それで萎えるのではなく、狂おしいほどの征服欲と化して。
(やめろ。もういない男が、これからの貴様を幸せにできるものか!)
尻を鷲づかみにし、パンパンと下品な音が響くほど腰を打ちつける。
(ここだって、そいつはもう触れることもないのだぞ)
上体を倒し、揺れる美麗な乳房に手を添えた。そこの衣は、ほとんど布を上からかけているに等しい。衣の下に手をしのばせ、直に手のひらに収める。
「はぁん! そこ、もっと強く握ってくださいませぇ」
言われるままだった。真っ白な肌に痣が残るのではと思うほど、指に力を込める。硬くしこった先端が、この上なくいやらしい。お仕置きとばかりに、指の間に挟んで、捻り上げてやった。
「ひっ! そう、それっ! ああ、もうご堪忍をっ」
途端に、肉襞が締め付けを増す。呂布の、董卓の、その他数知れぬ男たちの精を搾り取ってきた蠕動が、三成に襲いかかる。
「くっ……俺にも、どうにもならないことが……ある、のかっ! うっ――」
圧倒的な悦楽の前に、彼が強く信じる理は何の役にも立たなかった。竿の中の細い隧道を熱いたぎりが駆け抜け――勢いよく噴き出した。
「んあああっ!!……ああ……熱うございます……こんなに、たくさん……」
恍惚とした美しい声が、三成にはやけに遠く聞こえた。
三成は、気の利いた寝物語ができる男ではない。
貂蝉に聞きたいことは山ほどあっても、雰囲気を保つことはできそうになかった。結局、後始末する彼女に背を向けて、服を黙々と着ている。
(俺はこの女の……何なのだろうな)
かつて呂布に言われたことを、大真面目に考える日が来るとは思ってもみなかった。
歌や踊りを鑑賞するだけの、清い間柄ではもはやない。かといって妾でもなく、ましてや恋や愛がここにあるのかさえ分からない。
それでも、逃げるつもりなどなかった。
(必ず答えは出す。でなければ、死んだ方がましだ)
物思いにふける男の背中を眺めながら、貂蝉の胸中には激情の嵐が渦巻いていた。太腿に隠した匕首へと、手が伸びる。
(今なら、この男の背中に刃を)
他でもない、古志城で呂布を討った男。それが今交わった、石田三成だった。
『奉先様は、私より遠呂智を選んだのです。古志城でふられてしまいましたゆえ、お気になさらず』
と笑っても、結局は恋人の仇である。まぐわいで相手が消耗しきった今なら、やれる。
けれど。
陣羽織に書かれた文字から、貂蝉は目が離せなかった。
<大一大万大吉>
なぜ、彼はそんな字を背負っているのだろう。意味は不明だが、ここで消してしまうにはあまりに尊いものではないだろうか。貂蝉はいつしか、匕首を戻していた。
三成が振り返る。苦みばしった顔をしていた。
「長居をしてしまったな。その、いろいろと教えてもらったと思う」
「いえ。貂蝉はいつでも、三成様をお待ちしております」
貂蝉は、いつもと変わらず静かに微笑んでいた。
完
この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
遠呂智の淫謀 貂蝉編
呂布×貂蝉
Written by◆17P/B1Dqzo