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「ほう。これが、お前たちの世界から持ち込まれた……桜とかいう花か」
いつもと変わらぬすまし顔だが、曹丕は飽きることなく満開の大樹を見上げていた。彼に付き従う魏将たちも、異世界からの贈り物をもの珍しそうに眺めている。
「確かに美しい。が、どうして咲いたそばから、せわしなく散り急ぐのだ?」
降り注ぐ花びらを掌で受け止め、曹丕はわずかに眉をひそめる。
「儚いですわね。華やかなのに、なぜか寂しくなってきますわ」
彼の掌を、妻である甄姫が覗き込む。彼女の声色にも、哀れみの色が込められていた。
「その潔い散り際にこそ、私たちは桜に美しさを……そして、武士(もののふ)の理想をも見出すのです」
夫妻のすぐ背後で、答える者がいた。浅井備前守長政が、端正な顔に穏やかな笑みを浮かべている。この桜の園に、曹魏の面々を招待したのは、他ならぬ彼だった。
遠呂智が滅び、曹魏が再興して一月。長政は曹丕と新たな関係を築くべきだと考えている。その一歩として、今日の花見を企画したのだった。
曹丕は振り向きもしない。果たして『不朽の盛事』を求める魏文帝の感性に、長政の言葉は響いたのだろうか。
「フ……いずれ来る死を思うか。悪くないが、一人で死に急ぐのなら滑稽なだけだ」
「はい。今はただ、より良い生を生きたいと存じます。この、咲き誇る桜のように」
今度は、女の声で答えがあった。お市が長政に、ぴたりと寄り添っている。要人を多数招いての花見は準備も大変だったが、お市は喜んで細かい手配をこなした。おかげで、長政は胸を張って今日を迎えられたのだ。
それぞれの感慨を抱きながら、4人の男女が桜を静かに見つめている――
「そんなことより、ご飯にするだよ〜。綺麗な花を見ながら食べるご飯は、きっとすげえうまいぞぉ」
「がっはっは、酒もですぞ!」
少し離れたところで許チョと黄蓋が、早くも芝生にござを敷いている。その上には、日本と中華の酒肴が所狭しと並べられていた。
「まったく、自分に正直な者どもよ……今日一日、面倒をかける」
「ははは。面倒なことなど、何もありません。行こうか、市」
「はいっ、長政様」
長政らも、宴の輪の中に加わっていった。
ほどなく、ねねの手作り重箱も広げられる。酒も入ったところで夏侯淵が腹踊りを始め、それに触発された張コウが、自分の手で花びらをまきながら華麗に舞い始めた。いつの世も変わらぬ、宴会という名の馬鹿騒ぎは、日が西に傾くまで続いた。
やがて、客人たちが一人また一人と引き上げていく。宵闇に包まれた桜の園には、長政とお市だけが残された。
「お疲れ様でした、長政様」
「市もいろいろ手伝ってくれて、すまない。これで、曹魏との関係もより円滑になるだろう」
昼間の桜も陽気で和む。だが、夜空と桜花の鮮やかな対照は、人の心を惑わす妖しさに満ちている。そこに二人きりでいて、気分の盛り上がらぬはずがない。
「……んっ……」
「んふ……ぅんっ……」
どちらからともなく見つめあい、唇を重ねた。唇や舌の動きに激しさはないが、じっくりと溶け合うように互いの唇を、舌を、唾液を味わう。
ようやく離れた二人の唇の間には、ところどころ玉となった銀色の糸がかかっていた。
(あとは、部屋でゆっくりと)
そう切り出そうとした長政より先に、お市が口を開いた。
「私……以前より、ひそかにいたしてみたかったことが……」
心なしか、彼女の声は上ずっている。
「なんだい?」
お市が長政に耳打ちする。その途端、長政は思わず叫びだしそうになっていた。
「こ、ここで……か」
お市は小さく、だがはっきりとうなずいた。
「このように美しい場所で、私の一番美しい姿をご覧いただきたいのです」
確かにこの近辺はひなびていて、今は二人のほかに誰かが通る気配すらない。とはいえ、お市がかくも大胆なことを言うとは。これも、桜の魔力のなせる業なのだろう。
長政も、男としてお市の提案に抗えないものがあった。
「分かった。万が一のときは、某が何とかする」
「ありがとうございます……長政様……」
まず長政が、慣れた手つきでお市の衣を脱がせていく。さながら大輪の花弁のように、薄い桜色の着衣は芝の上へと舞い落ちていく。
衣の下の肌着には、お市自身の細い指がかかる。可憐な股布をずらし、足元から抜き取る。小さな布切れは、丸まって草の上に落ちた。
とうとう屋外で、美しい妻は足袋を履いただけの姿となった。そのしなやかな裸身は、桜の精と思えるほどに神々しい。吹く夜風は暖かい。お市には震えも鳥肌も見られなかった。
「ああ……自分が望んだこととはいえ……そんなに見られると……は、恥ずかしゅうございます」
少し離れて立つ長政が、熱い視線を向けている。お市ははにかみながら、両腕で乳房と股間を隠す。そのしぐさがまた、裸体に艶を加えた。
と、お市は急に背を向けた。そして、長政から逃げるように駆け出す。
「うふふ、私を捕まえられますか?」
あっけに取られていた長政も、いつになくいたずらな妻を追い始めた。
「ああ、逃がさないとも!」
市の背中、というより躍動する尻たぶを、長政は夢中で追いかける。日頃の真面目な彼からは想像もつかないほど、今の長政は男の本能をあらわにしている。
もともとふざけて逃げていたから、お市はすぐに長政に手を取られた。柔らかな女体が、長政の腕の中に抱きとめられる。二人はゆっくりと、花びらの降り積もる芝の上に倒れこんだ。
お市の柔肌には、たくさんの花びらが張り付いている。それらを払いながら、長政は妻に優しく愛撫を加えていく。淡い乳首を指先で弄り、じわりじわりと勃ち上がらせていく。小ぶりな半球にわずかににじんだ汗が、芳しい。汗を味わうように、吸いついた。
「ふうぅ、んんっ……あ!」
春風に、お市の微かな喘ぎが溶けていく。その声は、長政の愛撫が下へ下へと向かうにしたがって、徐々に押さえが利かなくなっていった。
いきなり女の核心には行かず、脇腹や太腿、茂みのすぐそばなどをさすって高めていく。さんざん焦らしたところで、ようやく脚を広げさせる。一番奥には茂みに守られ、秘華が眠っている。外にはみ出した花弁はやや色濃いが、それをくつろげれば鮮やかな内部粘膜が顔をのぞかせた。
複雑に重なり合う媚肉を、水音が立つほどに指二本でかき回す。お市は何度も腰を浮かせ、弓なりにのけぞった。外で全裸でいるという状況が、いつも以上に敏感にさせているのかもしれない。
さらに長政は、その極めて端正な顔を股間に埋める。お市が生きている証拠というべき、むせ返るような匂いと味が、長政の嗅覚と味覚を支配する。いつものことだが、こうなると市以外の何物も欲しくはなくなる。
「あっ、はぁあんっ! ダメ、溢れてぇっ」
お市もまた、とめどなく露を漏らしつつ悶える。いつもは雪のような柔肌も、薄く朱に染まっていた。
夫妻はお互いにもう、一つになりたいという思いでいっぱいになっていた。手近な桜の樹に、お市がよろめくように手をつく。すなわち、滑らかで小ぶりな尻を長政に突き出す形になる。
「来てくださいませ……長政様」
桜の木にしがみついて、お市はわずかに腰を揺らした。太腿から膝裏、ふくらはぎを伝い、踵まで愛液がこぼれ落ちる。それがひどく淫靡に見えて、長政の股間の分身はすでにはち切れそうになっていた。女陰に、長大な分身を突きつけ、うずめていく。
「うはあ……あぁ……こんなに、いつもよりもっと雄々しいっ」
「市のここも……心地よすぎて……たまらぬっ」
二人はいつにも増した快感と愛しさに、声もかすれる。
「長政様っ、長政様ぁ!」
「おぉ! うぅうっ」
奥まで繋がるとすぐに、前後への律動が激しく始まった。尻を打つ乾いた音と、胎内をえぐる粘着音が複雑な旋律を奏でる。
吹き抜ける風は桜花を散らし、愛し合う二人の上に花吹雪を降らせる。花びらに彩られた戦国一の美女の裸体を、長政は網膜に焼き付けた。
「市! 某は、幸せ者だ! 今宵のこと……決して忘れはしないっ」
「長政様っ、ならば私に、刻み付けて……! ひいっ! もう、私は、いやああっ、果ててしまいそうっ」
胸乳を幹に押し付けながら、お市も甲高い声で叫ぶ。
ほどなく、二人きりの宴は盛大な放出で幕を閉じるのだった。
一面の花の中睦みあう全裸の美男美女は、実に絵になる。暑くなった長政も生まれたままの姿になり、市と肩を寄せ合って桜を見上げていた。彼らの顔は、激しい一日を終えたにもかかわらず笑顔で輝いている。
「魔王の作った世界とはいえ……今の世も悪いものではありませんね」
「ああ。皆が安心して花見に興じられるような世界ならば。それは、遠くないのかもしれない」
もう、何度目になるか分からない抱擁を交わす。新世界の桜の下、二人は果てしない幸せを分かち合っていた。
間もなく、新たなる戦いの日々が始まるとも知らず。
完
この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
遠呂智の淫謀 お市編
Written by◆17P/B1Dqzo