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捕虜でも死体でもない娘が、古志城最深部まで来ることはめったにない。それも、二人。
一人は男の妄想を練り固めたような肢体を、淫靡極まりない服に包んでいる。もう一人は年端も行かぬ少女で、身体の凹凸などほとんどない。服も女らしさではなく、子供の可愛らしさを引き立てている。
妲己と卑弥呼――何から何まで対照的な二人が、連れ立って歩んでいた。
「妲己ちゃん。うち、ちゃんと役目を果たせるんかなぁ」
あどけない顔を曇らせ、卑弥呼は妲己を見上げた。妲己は即座に、力強くうなずく。彼女を安心させようと、いつになく優しい笑顔で。
「大丈夫。あなたなら、間違いないわ」
多くの予言や書物から、妲己は確信していた。今、隣にいる少女こそ、滅び去った遠呂智を蘇らせる力の持ち主だと。
「でもな、聞いてもええ? どうして遠呂智様をよみがえらせたいんや? めっちゃ気になるねん」
「それは……」
疑念なき瞳に見つめられ、妲己が一瞬、言葉に詰まる。この期に及んで拒否などされるわけにはいかない。慎重に言葉を選んだ。
「……もう、誰にもいじめられたくないからよ」
「いじめられる?」
「そう、私も遠呂智様もね、何千年も酷い目に遭わされてきたわ。だから今度こそ、自分たちの生きたいように生きられる場所が欲しいの」
遠呂智や妲己が好きに生きるためには、多くの人間たちが犠牲になろう。卑弥呼も人間なのだから、それを告げないことは罪である。
だが、彼女は彼女なりに、必死で居場所を求めている。女禍の命令を忠実に果たしたのに、太公望に処刑され、希代の悪女として歴史に名が残る。仙界に振り回されるのは、もうたくさんだった。
「そうやったんか……妲己ちゃん優しい子やのに……よっしゃ、うちに任せとき! 絶対成功させたるで!」
卑弥呼は薄い胸を張り、自分の拳でドンと叩く。
今の卑弥呼に、妲己よりも大切な存在などない。世間に流布する彼女の悪名など、どうでもいいことだった。一人泣いていた自分を助けてくれた、優しいお姉さんなのだから。
「……ありがとう……」
その小さな拳が、妲己にはとても痛かった。
そして、二人は儀式の扉を開けた。遠呂智と人類の死闘が繰り広げられた石畳の広間に、今は静寂だけが満ちている。
妲己の指図に従い、卑弥呼はその中央に横たわる。硬く冷たい床の上で、卑弥呼は落ち着かずゴロゴロしている。
「始めるわよ……」
妲己はすぐそばに腰を下ろすと、真剣そのものの表情で何事かを唱え始めた。彼女以外には理解することすらできない、古代の禁じられた言葉が、虚空に低く響く。
術の効果はすぐに現われた。まず、卑弥呼が動きを止め、急速に眠りへと落ちた。
「すう……すう……」
この異常な空間にいながら、安らかな寝息を立てている。さらには重力を断ち切ったかのように、卑弥呼の身体がひとりでに浮遊し始めた。それらの現象に興味を示すことなく、妲己は一心不乱に詠唱を続ける。
そして、妲己の喉も渇き始めた頃だった。
(ん……来た!)
青白い燐光が、少女の全身にまとわりついてきたではないか。くねり、這い回りながら。
燐光は徐々に強くなっていく。それと同時に、卑弥呼の服が煙を上げて焦げ始めた。真っ黒になると、肌からボロボロと剥がれ落ちていく。かなりの高温になるはずだが、卑弥呼は火傷ひとつ負っていない。
かくして、何も知らない少女は全裸で晒されることになった。かろうじて胸元が膨らみかけているのだが、少年と言われても分からないだろう。胸板を飾る乳首も陥没していて、ほとんど円形のあざに等しかった。
半透明の霊体は、剥き出しになった腿にシュルシュルと絡みついた。無駄肉などない細い脚が、120度ほどまでじわじわと開かれていく。
その奥には、堅く閉じられた肉扉が眠っている。縮れ毛一つ生えず、当然花弁もはみ出してはいない。そんな清らかな少女のすべてが、あらわにされた。初潮が来ているかどうかすら怪しい。
さらには、その一本筋がくぱぁ、と左右にくつろげられる。男など知る由もない桜色の内部粘膜が、薄い包皮に守られたいたいけな突起が顔を出した。
ここまでされてもまだ、卑弥呼は目を覚まさない。いいようにされる幼い裸体は、痛々しさの中にも人によってはそそるものがあろう。
少女の秘密をたっぷり確認した燐光は、一つの形をとりはじめた。頭、両腕、胸と、人の上半身に似た形をとっていく。かなり逞しい体格だが、何者なのか、細かいところまでは見て取れない。
「……妲己よ。我が依代(よりしろ)はこの童だというのか」
「遠呂智様っ!」
しかし、霊の発する声。地の底から響くような威厳に満ちた声は紛れもない、あの魔王のものだった。話したいことはいくらでもあるが、まずは儀式を完遂させねばならない。妲己はあえて、事務的な口調に徹する。
「彼女ほどの力がなきゃ、あなたに肉体を与えられる者なんていないのよ。……あまり、卑弥呼を痛くしないでくれる?」
己が肉体を性的な意味で貫かせ、遠呂智をこの世に下ろす。卑弥呼の役目とは、つまりはそういうことだった。もちろん、妲己は卑弥呼に、儀式の具体的な中身を明かしてはいない。
『寝てる間に終わるから』
とだけ告げていた。それでも卑弥呼は妲己を信じ、自分の意思で命運を任せた。そんな少女を、他の女のように壊すのは忍びない。身勝手だが、あの妲己にも確かに情というものが生まれていた。
「貴様らしくないことを言う。まあよい、やってみるとしよう。この娘を壊しては、蘇ることはできぬだろうからな」
妲己の真っ赤な唇から、思わずため息が漏れた。
かくして儀式は、最後の段階を迎える。遠呂智の燐光がいたいけな肉芽を包みこむ。先ほどより実体化しつつある燐光の触手は、未開発の器官の皮を剥き、転がした。
「んぁあっ……やぁん……!」
神経に直接作用しているのか。初めての経験にもかかわらず、卑弥呼の腰がビクンと跳ねた。意識は未だ夢の中にあるようだが、強烈な刺激で目を覚まさないとも限らない。もしその時、卑弥呼が頑強に抵抗したら……妲己には、少女の人格を保っておく自信がなかった。
「アッ……やっ」
遠呂智の『愛撫』はさらに続き、卑弥呼はあと少しで目覚めそうな反応を見せる。乳首や肛門に吸い付いた触手からも刺激が送り込まれていたが、愛汁はにじんでこない。せいぜいが、緊張をほぐす程度にしかなっていないようだ。
それでも、遠呂智は卑弥呼を貫くと決めていた。見た目こそ幼いが、妲己の選んだ娘は強者に違いない。その娘と交わり、この世に帰還を果たすという筋書きは悪くなかった。
「やっぱり、まだまだお子様よね……」
さすがに女の痛みを妲己はよく分かっている。このまま受け入れれば、あるいは耐え難い激痛に襲われるかもしれない。今は、首尾よく事が終わることを願うしかなかった。
遠呂智の半透明の上半身が、卑弥呼に覆いかぶさるように傾いた。未だ下半身は出現せず、イソギンチャクを逆さにしたような無数の触手が生えている。その一本が、卑弥呼の聖裂の入り口へと貼り付いた。かつて女を壊しまくった大蛇に比べればずいぶん細いが、それでも卑弥呼にはきついだろう。
「これが、我が再臨の道か……」
遠呂智は触手だけをうごめかせ、処女の肉扉をこじ開けた。
「うぅ……? あ、あぐ――っ! あああ!」
強引に押し広げられ、自分の空洞をギチギチに満たされる。半分霊体でありながら確かな質量を持った器官が、卑弥呼に未知の激痛を与えた。その破瓜の痛みでなってようやく、卑弥呼は意識を取り戻した。最悪としか言いようがない。しかも、長大な触手は子宮にまで入り込み、とぐろを巻く。初体験から、いきなりの異常さであった。
そこに秘められた霊気を受け、遠呂智の肉体が徐々に実体を伴ってくる。二本の太い脚が生え、石畳を踏みしめた。
卑弥呼はこれ以上ないほど悶えていたが、相手の顔はしっかり見つめていた。
「くぅ……あんたが……遠呂智……様……?」
「そうだ」
「妲己ちゃん、ずっとあんたのこと待ってたんよ」
「……分かっている」
苦しい息の下、卑弥呼は気丈にも遠呂智に微笑んだ。残酷な儀式に捧げられた生贄が。
「娘……貴様は強いな。我も、速やかに終わらせるとしよう」
幼い生娘の初々しい締まりを堪能しながらも、ほとんど前後に動かさない、静かな行為だった。数知れぬ女たちを陵辱し、身も心も壊してきた、あの遠呂智が。
「卑弥呼、もう少しだからね」
「う、うん……」
そして、妲己はいつしか卑弥呼の傍らで手を握りしめていた。その程度で彼女への罪が消えることはないと分かっていても。
やがて、一つの救いがもたらされた。
「ん、あはぁ! あぁん、何これ、めっちゃ気持ちええっ!」
神にも等しい魔王の相手をしたことが、幸運だったのだろうか。胎内に満ちた霊気は破瓜の傷を癒し、少女に信じられないほどの快感をもたらす。表情は恍惚と緩み、肉付き薄い腰をカクカクと振っている。股間からにじむものは、破瓜の血だけではなくなっていた。
遠呂智の逞しい胴に抱きつき、感極まった表情で熱い吐息を漏らす。終幕が、近い。
「う、うち、もう……ひあぁああ!」
「ぬ、これは!」
卑弥呼が絶頂に達すると同時に、彼女の奥底に秘められた力が解放される。青白かった遠呂智の霊体には血肉と、異形の鎧まで与えられ、以前と変わらぬ威容が蘇る。
ここに、遠呂智は黄泉比良坂を駆け上り、完全に復活を遂げた。
「ああ卑弥呼……無事でよかった……」
大役を終え、気を失った少女を、妲己は思わず抱きしめていた。身体への負担は相当なものだったが、精神に支障はきたしていないだろう。それにしても、今の妲己は妲己であろうか。
「我が力に屈したものは数知れぬ。この力に魅せられた者もいる。だが、何も求めず我らのために……」
遠呂智は彼女たちを、少し離れたところに立って眺めていた。紅と碧だった瞳は薄い青に落ち着き、髪は銀色に輝いている。
「人間とは、分からぬものだ……」
それでも、遠呂智は人類の敵として戦い続けるだろう。答えは、戦いの中にしか見出せないのだから。
完
Written by◆17P/B1Dqzo