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仙界の住人が、常に正義の味方とは限らない。彼らにも、欲望というものはある。
太公望も今、その欲望に身を任せていた。前より目を付けていた人妻を、その外出途中にかどわかすことで……
ここは孫呉の領内。街道沿いのとある廃屋で、人知れず宴は始まっていた。
「クク……我が仙術の粋、お気に召したかな」
若き仙人はいつもと変わらぬ冷笑を、口元に浮かべている。だがその内側では、血潮がグツグツとたぎっている。
「あっ……んああっ! いや、やめてくださいっ!」
彼の視線の先では、獲物となった一人の娘が、華奢な裸体を右に左によじっている。太公望は指一本触れていないのに。
さらに言えば、手枷も足枷もないのに棒立ちで逃げようともしない。いや、できないように見える。剥ぎ取られ周囲に散乱した、可憐な着衣が何とも痛々しい。全裸ではない。靴と太腿半ばまでの靴下だけを着けさせられている。太公望の趣味だろうか。
「美しい……貴女の夫は、貴女を愛することしかしないのだろう? だが、それでは貴女の美の半分も引き出せはしない。そこで私の出番だ」
傲慢な彼らしく、身勝手な理屈をとうとうと並べる。
「ひっ、ああ! あ、当たり前です、孫策様が、私を傷つけたことなどっ、はおああ!」
それを聞き、苦悶と羞恥の極みにありながら、孫策の妻・大喬は懸命に声を絞り出した。いっそう相手を喜ばせるとも知らずに。
それにしても、なぜ彼女はよがって、もとい苦しんでいるのだろう。
太公望の指先からは、極細の糸が三本、女体へと伸びている。うち二本は控えめな乳房の淡い頂へと、もう一本は滑らかな腿の間へと。それらが乳頭と淫豆にくくりつけられているのだ。
当然ただの糸ではない。宝貝・打神鞭の釣り糸が用いられていた。太公望が手元でピンと弾けば、その振動は増幅されて、敏感なむき出しの突起に流れ込む。苦痛と、それ以上の快楽となって。
「ダメ、あ、あ、あ!? は、弾かないで、弾かないでえぇっ」
「ふむ、良い声だ」
目をカッと見開き、涙まで流して大喬は訴える。当然、聞き入れる太公望でもない。
大喬が動けないのもまた、仙術のなせる業だった。彼女の背後の空間には、身の丈ほどの直径を持つ円形の紋様が、くっきりと浮かび上がっている。それが、彼女を不可思議な引力で捕らえて放さない。手足を大の字に伸ばされたまま、哀れな人妻は何も隠せない。
まさに仙術の無駄遣い。太公望も一皮剥けば、妲己と同類なのだろうか。
「はぁはぁ……アッ!……クハアッ……ア――ッ……!」
今日何度目になるかも分からぬ振動が、もっとも脆弱な部分へと襲いかかる。ほとんど痙攣するように、大喬は身体を震わせ、鳴いた。
(このままでは……ダメになってしまいますっ……)
間違いなく達してしまう。夫以外の手で堕ちることこそ、彼女が最も恐れていることだった。だから、今まで必死に耐えてきた。
しかし、仙術の力の前では人間の理性など敵ではない。充血し、ビンビンに勃起しきった突起は、正直なものであった。あと一押しで、貞淑な彼女は達する。
「さあ、人の子よ。恐れることはない。我が手で、真の桃源郷を見せてあげよう」
少しだけ上ずった声で、太公望は高らかに言い放った。
「あぁ……もう、私は……」
観念したように、大喬はつぶらな瞳をつむる。
今になって思い出されるのは、今日の外出の目的だった。蜀の援軍の大役を終え、久々に呉に戻ってきた陸遜への使者を、彼女は任されていた。忙しい孫策のためと、買って出た役目があだになるとは。
(孫策様、陸遜……ごめんなさい……)
バンッ!!
突如、廃屋の扉が開け放たれた。差し込む光の向こうから、若き武官が飛び込んでくる。やや小柄で、女性的とさえ思える顔立ちがひときわ目を引く。大喬が訪ねようとしていた、陸遜その人であった。
「大喬様!? 遅いと思ったら……た、太公望殿! 何をしているのです!」
陸遜の目には、今まさに絶頂に上りつめようとする大喬と、その眼前でほくそ笑む太公望の姿が映っていた。
「クク……何かと問われれば……見ての通りと言わざるを得ないが?」
「ならば問答無用っ!」
陸遜は躊躇なく、腰の双剣を抜き放った。まさに燕のごとき速さで、かつての共闘相手に斬りかかる。さすがに太公望も陵辱の手を止め、打神鞭で受け止める。
「きゃああーっ! 二人とも、落ち着いてくださいっ!」
陵辱に続き、目の前で繰り広げられる修羅場に、気丈な大喬も思わず悲鳴を上げた。このままではどちらかが、無事では済まないかもしれない。
だが、数度打ち合ったのち。
「くっ! 火遊びはほどほどにせねばな……」
相手の気迫に押されたのか、太公望は縮地の術で逃げ去った。すでに、彼の影も形もない。縛り付けていた糸が消え、術が解け、大喬はその場にうずくまる。陸遜は矢も盾もたまらず、駆け寄った。
「大喬様! ご無事ですか」
とりあえず、彼女の上着だけでもかけてやる。いつもは穏やかに微笑むその顔が、幾筋もの涙に濡れていた。
「ええ……陸遜……」
操までは奪われていない。力なくうなずく大喬だが、乳首も陰核も痛々しいほどに勃起していた。太公望が無責任にも逃げたため、絶頂寸前の状況でお預けを食ったようなものである。
大喬の指が、ひそかに秘所へと伸びる。こらえきれず自分を慰めようとしていた。
「うぅっ……あ……あぁ……あの、少しだけ、外に出て……」
そんな彼女の肩に、そっと陸遜が手を置いた。
「こんなになって……私に任せてもらえますか」
「だ、ダメです! 私には孫策様が……あふぅっ!」
大喬はどうも、強引な男に好かれるらしい。陸遜は大喬の制止も聞かず、その乳肌に指を置いた。
「これは、尋常な疼きではないはず。ある種の病のようなものですね……んっ」
「そ、そうなのですか……ふぅ……」
太公望に痛めつけられた乳首を舌で転がし、豆を指でさする。陸遜の指は女性のように細く柔らかく、舌もあまりざらついていない。大胆な行為に困惑しながらも、大喬は心身が癒されていくのを感じ取っていた。
(陸遜は私の傷を治そうとしているだけ……やましい心でしているのではないのです……)
自分自身に言い訳しながら、大喬は徐々に陸遜の行為を許してしまう。両の乳房が彼のつばきにまみれ、苛烈な責めを受けた姫割れがジュンと潤むまで。温かな官能の火が、大喬を再び絶頂へと導き始めた。
「あっ、ダメ、イヤァ、わたし、私!?」
「良いのです……すっきりしてくだされば……」
イヤイヤとかぶりを振る大喬には構わず、陸遜は熱心に愛撫を続ける。彼の吐息もまた、熱く速くなっていた。いくら可愛い顔をしていようと、陸伯言も男である。むしろ人一倍、内に秘めたものは熱いのかもしれない。
香水、汗、愛汁。陸遜の鼻腔いっぱいに、大喬の香りが満ちていく。それはもう、彼女の陥落が近いという証。
配下の青年に思わずしがみつき、大喬はなす術もなくそのときを待つ。暗く冷たいはずの廃屋に、ぼんやりと光が満ちていく気がした。三つの突起から、脳髄へと快楽の紫電が駆け抜け――
「わ、私もうっ! 陸……ひっ、あっ、アア――ッ!」
とうとう大喬は、天井を見上げて嬌声を上げ……しばらく後、崩れ落ちた。
「差し出た真似……お許しください、大喬様……」
大喬は、返事すらできなかった。そんな主君の妻を抱きしめながら、陸遜は頬に口づけた。
結局、大喬は、陸遜にその場で用件を伝え、どうにか一人で帰っていった。陸遜は、彼女の背中が見えなくなるまで見送り、踵を返した。
「すみません。こんな茶番の、それも汚れ仕事に付き合っていただいて」
誰もいないはずなのに、陸遜がいきなり口を開く。その傍らには、いつの間にか太公望が立っていた。あれほど激しくやりあったはずの相手が。
「人の子とは恐ろしいものだな。『どんな手を使ってでも、振り向かせたい相手がいる』と貴公は言っただろう? クク……その罪深さに、私は興味を持ったまで」
太公望はいつものように、皮肉っぽい笑みを浮かべていた。道化役も悪くはないと思ったのだろう。
「覚悟はできています。私の智略のすべてを、傾けても構いません」
なぜそこまでして、大喬一人に危ない橋を渡るのか。それは陸遜にしか、いや彼にも分からないかもしれない。それが恋や愛だと言ってしまえばそれまでなのだが。
「まあ貴公の罪など、遠呂智や妲己に比べれば可愛いものだ。しばらくは貴公の物語を見せてもらうとしよう。さらばだ!」
横を向いたとき、すでに太公望はいなかった。相変わらず、煙のように姿を消していた。あとには、孤独な青年が残されるのみ。すでに陽は西に傾き、彼の影を街道に長く伸ばしている。
「綺麗な手で摘み取れる花であったなら、こんなことはしませんよ」
陸遜は顔をしかめた。夕陽が目にしみるせいでもなかろう。
完
この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
遠呂智の淫謀 大喬編
Written by◆17P/B1Dqzo