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この世の終わりのような大地震が収まったあと、目を開ければ見知らぬ風景が広がっていた。遥か古代の、別の国の景色が。
何があったのか。確認する間もなく、異形の将兵たちが地平線の向こうから続々と現われ、襲いかかってきた。女とはいえ武人。彼女はひるまず立ち向かう。だが、相手の力は、人間を凌駕していた。やがて矢尽き弓折れ、縄目の恥辱を受けてしまう。
家族や家臣の安否も知れぬまま、独り、とある天幕へと連れてこられた。
その分厚い布をくぐったとき、運命が走り出した。
自分と同じ年頃の娘が、数歩前方に立たされている。それも、自分と同じように、手首を縛り上げられて。
(活発そうな方ですが……しょ、少々、肌を出しすぎでは?)
娘は、眉をひそめた。
目の前の娘は、身体にぴったりした武道着らしきものに身を包み、胸元やへそ周りの素肌を惜しげもなく晒している。爽やかな健康美を放っているのだが、それすらも彼女にははしたなく思えた。
自分より頭一つ高い兵士を見上げ、臆することなくにらみつけている。その顔立ちや、短く切り揃えた髪型から、活発な性格であることは容易に察せられた。
観察されていた短髪の娘も、後から入ってきた娘にすぐ目を向けた。きりりと束ねた長い髪は、漆を流したように黒々としている。上半身に鎧、下半身に膝までの袴を着け、肌の露出は少ない。しかし、大きく開いた胸元には豊かな谷間が刻まれ、胸乳(むなぢ)は鎧の下でとても窮屈そうに見えた。
やけにこちらを見る目が険しい。自分では、変な格好はしていないと思うのだが。
(ずいぶん真面目そうな子ね。それにしても見たことない服……どこの国から来たのかしら?)
しばしの間、二人の娘は無言でにらみあっていた。
そのとき、虚空が口をきいた。
「はぁい、はじめまして♪」
若い、女の声だった。黒髪の娘も短髪の娘も、思わず声のしたほうを向く。何もないはずの空間に怪しげな燐光が集まり、何かの形を成していく。やはり、女の身体であった。やがて光が収まると、天幕の中には三人目の女が出現していた。
「なに、もう捕まっちゃったの? もっと粘ってよ」
「あ、あ、あなたは……」
女の姿を一目見て、黒髪の娘は口をあんぐりと開けた。
服を着ているというより、素肌に布を貼り付けていると言う方が正しいだろう。白く、はちきれんばかりの胸乳が、隙間からほとんどこぼれ落ちそうになっている。下半身も、ムチムチした太腿が剥き出しになっていた。
頭には三日月のような巨大な冠をかぶり、極薄の帯を何本も纏わせている。一面神秘的ではあるが、貞操観念というものを疑わずにはいられない。
「私? ああ、妲己っていうの。これからよろしくね……いろいろと」
妲己と名乗った女は、捕虜二人に舐めるような視線を向けた。黒髪の娘の嫌悪感は最高潮に達する。
「な、何というあられもないいでたち! 不埒ですっ」
思わず、口から泡を飛ばしてなじっていた。だが、その剣幕に妲己はひるむどころか、真紅の唇に嘲笑を浮かべた。
「私にお説教だなんて、立場ってものが分かってないわね〜。それ!」
両腕を伸ばし、指先を二人に突きつける。すると、二人の足元が淡く円形に輝き始めた。円の外周からは光がまるで壁のように垂直に上昇していき、天井にまで達していく。たちまち、光の壁が二人の捕虜を取り囲んだ。まるで現実の光景とは思えない。
「これは、いったい……」
「さ、兵士は下がらせてあげるわ。抜け出してごらんなさい?」
その言葉を受け、兵士たちは娘たちの手首の縄をほどき、本当に退出してしまった。
「何よ、こんなもの。どうせハッタリでしょ!」
短髪の娘が、肩口から壁にぶつかっていった。そして……
「きゃうっ!?」
ものの見事に跳ね返された。見たところ障子紙より薄い光の壁に。
「えいっ、このおっ!」
「これなら!……そんな、傷一つ付かないなんて」
短髪の娘は往生際悪く体当たりを繰り返し、黒髪の娘は懐から取り出した短刀を突き立てようとする。それでも、非現実的な壁は小ゆるぎもしない。
「そろそろ分かった? あなたたちは籠の中の小鳥、ってこと。そういえば、名前聞いてなかったわね。教えて?」
二人が疲弊し、悪あがきが収まってくると、妲己は至極軽い口調で名を尋ねてきた。強大な力との差が、かえって恐ろしい。黙り続けることは、できそうになかった。
「……孫尚香よ」
「本多忠勝が娘、稲と申します……」
捕虜二人ははじめて、互いの名を知った。
『江東の虎』孫堅の娘、尚香。
『徳川四天王』本多忠勝の娘、稲。
千数百年の時を越え、今二人は同じ場所にいるのだ。それがどれほどのことか、まだ理解していないが。
「尚香さんに、稲さんね。あはは、そんな顔しなくても大丈夫よぉ。あなたたちみたいな可愛い女の子、殺すのはもったいないじゃない。す・ぐ・に、解放してあげるわ」
信じられないほど寛容な言葉に、稲も尚香も耳を疑う。
もちろん、それには条件が付いてきた。妲己――殷王朝を滅ぼした希代の淫婦にふさわしい、ふざけた条件が。
「今ここで、見せてくれたらね――あなたたちの、すべてを」
『すべて』を見せる。それがどういう意味か、分からぬはずもない。そして、稲も尚香も羞恥心と矜持が許さなかった。
「はぁ? なんて言ったの、聞こえなかったんだけど〜」
尚香はそらとぼけ、
「そ、そのようなことをするくらいなら、牢に繋がれた方がましですっ」
稲は真っ向から断る。
そんな二人への答えは、実に分かりやすいものだった。
妲己が無言で、指をパチリと鳴らす。瞬間、光の檻の中が目も潰れんほどに激しく輝いた。
途端に、二人の口から甲高い悲鳴が上がる。
「うあっ!? はぐ、きゃあっ! いた、痛いっ」
「こ、これは、まるで立花様の……あ、あ、あぁぁっ!!」
手足がでたらめに痙攣し、衣服のところどころが焼け焦げていく。稲の胴鎧にまで、ひびが入り始めた。当然、その顔は苦悶にゆがむ。
輝きの正体。それは、幾筋もの電撃だった。逃げ場のない稲と尚香めがけて、人工の稲妻が次から次へと突き刺さる。
「このまま服をボロボロにして、素っ裸で外に放り出してもいいのよ?」
妲己の口調が今までよりきつい。本気に違いない。もし、敵の真ん中でそんなことをされたら……恥ずかしいどころでは済まないだろう。
「この天幕には、誰も近寄れないわ。見るのは私だけ。さ、どうすればいいと思う?」
「くはああ――っ!!」
稲光が、さらに強さを増した。このままでは真っ裸どころか、黒焦げになりかねない。
誇りか、命か。
「わ、分かったわよ……! 脱げばいいんでしょ、脱げば! だ、だから、止めて」
先に命を選んだのは、尚香だった。
「尚香……殿……!」
尚香の檻の中だけ、雷撃がやんだ。たまらず、膝をつく。しかし、これ以上のろのろしていれば雷撃が再開されるだろう。
「うぅ……さっさと見て、解放しなさいよね」
武道着の上をたくし上げ、下も一息にずり下ろす。現代のような肌着は着けていない。尚香の引き締まった肢体が、たちまちあらわになっていった。
(そんな……敵の前で、このような辱め、嫌あっ)
尚香が脱いでいくのを目の当たりにしても、これほどの雷を浴びせられても、まだ稲には踏ん切りがつかない。そんな稲を尚香は無言で見つめ、小さくうなずいた。
(そうよ、彼女も勇気を出した。私だって、生き残るためならこれしきの恥!)
「だ、妲己殿! 稲も、仰せのままにいたします……ですから、ひぎいっ」
「脱ぐ?」
「く……拒みは……いたしません……」
そこまで言って、ようやく人工雷が停止した。
震える手で、鎧の留め金を外していく。前後に分割された防具の下から、閉じ込められていた膨らみが震えて飛び出す。それから、藤色の袴の前をほどいた。その下には一枚の白い布が巻かれている。袴を短く詰めている稲は、腰巻もごく短い。するりと身体から離れ、落ちていった。
こうして、天幕の中に、息を呑むほど美しい光景が出現した。衣服が散乱する中、二人の姫君が何もかもあらわにして立ちすくんでいる。身に着けているものといえば履き物と、わずかな装身具のみ。
尚香は半ばやけくそ気味に胸を張り、稲はうつむいて身を縮めている。両腕で頑なに、胸と下腹部を隠している。しかし、二人とも戦と稽古で磨かれた、恥ずべきところのない肉体の持ち主であった。発育良好な乳房は発達した胸筋で持ち上げられ、ツンと上を向いている。戦場を駆けるための脚には無駄肉などなく、メリハリの利いた脚線が雌鹿を思わせた。
「尚香、殿……」
「な、何?」
「い、いえ……」
横に立つ尚香に、稲はせわしなく目を向けていた。視線に、先ほどのような険しさはない。時折、溜め息まで漏らしていた。
「ふふ、隠しちゃダ・メ。綺麗なものは、見せる義務があるのよ」
「え、え? そ、そんな、ご無体なぁっ!」
これも術によるものか。隠そうとする意思とは裏腹に、手が勝手に動きはじめてしまった。胸や股間から引き剥がされ、体側にぴたりとつけられてしまう。反射的にしゃがみこもうとしたが、棒立ちのまま動けない。しかも足は、肩幅に開かれている。
「あ、後で覚えてなさいよ……」
もちろん尚香も、同じ姿勢を強要される。
見えない力で固められた二人を見て、妲己は満足げな笑みを浮かべた。
「これで、すみずみまで見やすくなったわね。じゃ、観察開始、っと」
肌に息がかかるほど近寄ると、顔から交互に眺めていく。徐々に身をかがめ、肌理細やかな美乳に視線を這わせていく。ふもとから淡く色づいた先端まで、間近でじっくり見比べた。
「先っぽ、綺麗な桃色をしているのね。尚香さんのほうが、少し大きいかな? 舐めたら、どんな声で鳴いてくれるのかしら」
楽しげにしながら、眼光は異様に冷たく鋭い。姫君たちの外見の美しさだけでなく、内に秘めたものを見定めようとしているかのように。
縦長の愛らしいへそを通り過ぎると、草むらが妲己の目に晒された。二人とも、かなり豊かに生い茂っている。処理の跡は見られない。生え始めてこのかた、自然に任せているらしい。
「すごいのね。手入れを知らないんじゃないの? だったら、この奥も……くすくす、楽しみぃ」
とうとう、妲己は二人の足元に膝をつき、姫割れを観賞し始めた。まずは、稲から。
「おやめください、妲己殿! 自分でも、み、見たことなど……」
「だったら、私が初めて、ってこと? 嬉しいわぁ」
抗議も聞かず、陰唇の縁に指をかけ、くぱぁ、とくつろげた。毛足の長い恥毛に守られていた内部粘膜が、鮮やかなたたずまいを見せた。戦の直後だっただけに、稲の人間としての匂いが妲己の鼻先に漂う。
「ふふ、やっぱりとても綺麗よ、稲さん。ここは何も、知らないんでしょ?」
「あ、当たり前ですっ! こ、輿入れ前に、殿方に身を任せるなど言語道断」
あまりの恥辱に声も足も震えが止まらない。
「ちょっとぉ、それ本気で言ってるの? 人生の軽く半分くらい、損してるわね」
貞操観念のなさすぎる女と強すぎる女。お互いを理解するのは至難の業だろう。
(でも……ここは結構自分で使ってたりして)
確かに、花弁の上方で膨らむ豆は少々大きめで、立派に自己主張していた。妲己の読みが正しいのかどうかは分からないが。
ようやく指が離れ、稲の姫割れが閉じられた。もう一人の捕虜を辱めるために。
「稲さんは、こんなところね。じゃ尚香さん、お待たせ♪」
「待ってなんかいないわよ! やめて、ああ……そんな……」
尚香も同じようにして、開かれてしまう。稲と違い、陰唇の周囲はほぼ無毛だった。花弁の色も大きさも、年相応の成熟を見せてはいたが、やはり男の気配がない。
「あなたのココも素敵よ。甲乙つけがたいって、こういうことかしら」
自分の股間にもぐりこむ女を、尚香は終始にらみつけていた。そうでもしないと、涙腺が緩んでしまいそうだったから。
「はーい、お疲れ様♪」
やがて、尚香の秘花も閉じられた。執拗な視姦がようやく終わる。稲も尚香も、思わず深い溜め息をついた。その目が、不快な痛みに見開かれる。
「く!」
「あうっ!」
立ち上がった妲己の両手には、数本の縮れた黒いものが握られていた。それを妲己はぺろりと舐める。
「分かった? 今のあなたたちは、ココの毛一本まで私のものってこと。それをたっぷり、教え込んであげる」
「な、ななな……!」
自分の恥毛だと分かると、二人の怒りと恥ずかしさは極限に達した。しかし、文字通り手を出すこともかなわない。
「でもまあ、今日はこれでおしまい。私の部下に命じて、送り返してあげるわ」
妲己の姿が急速にぼやけていく。
「ああ、面白かった。さよぉーならぁー」
忌々しい女狐は、手を振りながら再び虚空に消え去った。
妲己が消え、二人の身体も自由が利くようになった。慌てて服を身に着け始める。はじめは、黙々と。
しかし、稲は声をかけずにはいられなかった。この惨めな気持ちを、一人で癒せそうになかったから。
「あの……」
「えっ、何?」
遠慮がちな稲の呼びかけに、尚香も気付いた。明らかに時代も国も違うはずなのに、不思議と互いの聞き慣れた言葉に聞こえる。
「尚香殿は……お強いのですね。稲はもう、消えていなくなってしまいたかった……」
「んー? どうせ、向こうも女なんだし。気にすることなんてないわよ。今度会ったときは、あいつの服をむしりとってやりましょ?」
そう言って、尚香はあっけらかんとしてみせる。この生真面目な子を、安心させてやりたいと思った。本当は、はらわたの煮えくり返る思いをしていても。
そんな尚香の姿を見て、稲も少しは気が軽くなった。
「くすっ。ありがとう……尚香殿」
「またまた、お礼なんて」
そうこうしているうち、尚香のほうが先に着替え終わってしまった。今は一刻も早く、父や兄たちに無事を知らせたい。
尚香は駆け出したが、一度足を止め、稲のほうを振り返った。
「稲、って言ったっけ。また、会えるかしら?」
袴に足を通していた稲が、予期せぬ言葉に顔を上げた。
「えっ?」
尚香も、自分の言葉に驚いていた。
「ふふ、何でだろう。そう言ってみたくなっちゃった。じゃあねっ!」
「は、はい……また……」
尚香の消えた入り口を、稲はただただ眺めていた。二人を結ぶ数奇な絆の、これが始まりと知る由もなく。
Written by◆17P/B1Dqzo