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日はとっくに沈み、三日月がぽっかりと浮かんでいる。それでも甄姫は、辛抱強くその男の帰りを待ち続けていた。男を常にひざまずかせてきた、彼女が。
白と紺を基調とした衣装からは、豊かな肉体の線が容易に見て取れる。膝下も胸元も際どいところまで露出しているが、あくまでも優美で下品さは微塵もない。丁寧な化粧も、随所にちりばめられた宝石類も、過不足なく彼女の肢体を引き立てていた。
その気になれば帝さえ意のままにできる美貌、それが一人の男に一途に捧げられている。世の男どもが、相手への嫉妬に狂うはずである。
ガシャ、ガシャ……ザッ、ザッ……
その時、窓の外から、金属の擦れあう音と重々しい足音が聞こえた。
「まあ!」
甄姫は弾かれたように椅子から立ち上がり、表へと駆け出す。衣の間から、真っ白な太腿があらわになるのも意に介さない。
「お帰りなさいませ、我が君!」
口元をほころばせた甄姫に向かって、分厚い鋼の甲冑が一人で歩いてくる。これは落ち武者の亡霊か。それとも甄姫の気がふれたのか。
さらに。
「寂しい思いをさせてしまいましたな」
甲冑はうやうやしく頭(こうべ)を垂れ、口を利いた。中にいるのは亡霊などではない。鉄壁の防御で大陸に知れ渡るこの男の名は曹仁、字を子孝という。
そして甄姫は今や、この曹子孝の妻であった。
「このように、恐ろしげな隈取りなどなさらずとも」
曹仁の目の下に描かれた戦化粧を、甄姫が丁寧に拭って落としている。鎧兜を脱いでも、やはり彼の体格は、武人らしくがっしりしている。そもそも貧弱な肉体の持ち主なら、あの化け物じみた甲冑をまとって動くことすらできないだろう。
「自分は心が弱いゆえ、これで自らを鬼としているのです」
曹仁の声は、存外に柔らかい。細い目の奥の光も、今は穏やかに甄姫へと向けられていた。
(見た目で損をしているとは、この方のことですわね)
服飾に、趣味に、甄姫は自分を魅せる努力を常にしてきた。それと対極にあるような曹仁と、なぜ共にいる気になったのか。曹操軍に『保護』されたとき、寛大にも選ぶ権利が与えられていたというのに。
彼女が曹一族から選んだのは、乱世の英雄曹孟徳でも、後の文帝曹丕でも、天才詩人曹植でもなかった。その傍らに控える、まことに地味で無骨な曹子孝であった。
真四角な強面に、牡丹の花びらのごとき唇が吸い付く。曹仁は細い目をわずかに丸くし、それから短く刈った髪を無言でかいた。日に焼けた頬が、朱に染められている。
「仕方ありませんわ。戦に情は持ち込めませんもの」
甄姫は瞳を閉じて、逞しい漢に上半身を預ける。ツツ……と、人差し指が胸板を撫でた。さりげなく、乳房を押し当てることも忘れない。
「でもどうか、わたくしの前でだけは心の鎧をお脱ぎください」
曹仁だけのために調合した香が、彼の鼻腔から胸いっぱいに満ちていった。
「うふふっ……此度の戦は長かったから……もうはちきれそうですわよ?」
全裸になった曹仁の肉槍に、甄姫は熱い吐息を吹きかける。直立の姿勢にもかかわらず、禁欲を重ねた男の武器は天井を向いて勃ち上がっていた。
それも当然だろう。今、目の前にいる新妻は、胸と腰を透けるような肌着で覆っているだけなのだから。ホイホイと素っ裸になればいい、というものではない。肌の隠し方、見せ方というものを、この妖婦は心得ていた。薄布に覆われた豊かな乳と尻が、男の所有欲を煽って止まらない。
「何といとおしいのでしょう……んんっ」
焦らすように、唇を近づけては離す。それを幾度か繰り返したあと、おもむろに肉塊を飲み込んでいった。紅の輪の中に、赤黒い巨根が消えていく。さらにそこから、ピチャピチャ、ジュルルと淫靡な水音が立ち始めた。
「む、むう……自分などに……過ぎたこと……」
股間から脳髄を直撃する刺激に、曹仁は低くうめく。しかし、鉄壁の防御は夜も崩れない。こみ上げる快楽を味わい、青筋を浮かせて勃起させながらも、決して早々に放出などはしなかった。
そうすると、今度は甄姫が待ちきれなくなってくる。
(前の頼りない夫とは雲泥の差……わたくしが、逆にじれるだなんて)
ついに、口淫を止めて夫に訴えた。
「ぷはあ! い、意地悪ですのね……こんなにしているのに……」
「すみませぬ。自分が耐えていたは、これより攻勢に転じるため」
「あ……」
丸太のような腕で、曹仁は甄姫をひょいと抱え上げた。分厚い胸板に押しつけられる。前の夫・袁煕では絶対に真似できない芸当だった。
乳房を覆う布を、たくし上げる。やっとあらわになった谷間に顔を埋め、吸い立てる。
同時に股布を横にずらし、秘裂へ片手を伸ばした。豊穣な茂みの向こうの、妖しい真珠を無骨な指が転がす。
あの真面目な曹仁がいつの間に、と疑うような巧みさであった。少なくとも、甄姫に教わったものではない。
「あおぅ、お、お上手ですわ、我が君。お優しくて……う、は!」
横笛のような嬌声を聴きながら、いよいよ準備万端の切っ先を秘裂へあてがう。二人の目が合い、うなずきあった。
「参りますぞっ」
「ああ! た、逞しいい……ひいぃ!」
曹仁に支えられ、悲鳴に近い喘ぎを漏らしながら、甄姫が巨乳を弾ませ踊る。そこには女王然とした日頃の彼女はなく、ただ一人の可愛い女がいるのみだった。
そして巨木のように直立したまま、曹仁は下からズンズン突き上げる。力強さと優しさに満ちた律動に、甄姫は彼の本質さえも感じ取った。
「お……あぁ、我が君、曹仁様、わたくしもう、真っ白、真っ白にぃ」
「了解した。何の心配もなく……高みに昇られよっ!」
「あぁあああ――ッ!」
腰のバネを活かした一撃が、甄姫の意識を彼方へ飛ばした。
激情の波が去ると、曹仁は静かに甄姫を下ろした。体重をかけないよう、傍らに膝をつく。
「自分は、生涯を貴方の盾として生きる所存。曹魏と共に、守り抜いてみせましょう」
差し伸べられた手を、甄姫は両手で握りしめ、微笑んだ。あの日の自分の選択が、女の幸せに続くと信じて。
この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
濃姫×甄姫
遠呂智の淫謀 甄姫編
Written by◆17P/B1Dqzo