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バレンタイン小ネタ

始動編

時代背景から言って、バレンタインチョコなどとはまったく無縁な、女性武将たち。
それは承知で、もしこう頼み込んだら?
『2月14日に、あなたにお菓子を作っていただきたいのですが』
以下は彼女たちの反応である。

甄姫「菓子をご所望なのですか? まあ、可愛らしいこと。では、腕利きの料理人を呼びつけて……わ、わたくしがぁ!? コホン、よろしくてよ。大人の味、というものを教えて差し上げますわ」

孫尚香「お、お菓子ねぇ……どっちかって言うと、弓の稽古のほうが気が楽かな……あはは。でも、他の人に負けるわけにはいかないわね! 今から特訓あるのみよ!」

大喬「お菓子ですか? そうですね、戦うのよりは得意だと思います。とにかく大きな失敗をしないように、心を込めさせていただきますね」

小喬「えっ、お菓子? やったぁ……って、あたしが作るのぉ!? しょうがないなあ、ほっぺたが落ちても知らないよ? で、どうやって作るの?」

月英「お話はお伺いしています。この月英、持てる知識を総動員し、必ずや貴方の満足する一品を作ってご覧に入れましょう。安全性を考え、木牛に入れてお届けしますね」

星彩「菓子? 突然な話ね、何かの行事で使うの? 一応、作れるけど……あまり期待しないで。私は、できることを精一杯するだけだから」

貂蝉「まあ、お菓子ですか。お任せください、使命は立派に果たしてみせます」
「そういえば、董卓様にはトリカブトをたっぷり練りこんで差し上げたのですが……何もなくてがっかりでしたわ(にっこり)」(注・絶対に真似しないでください!)

祝融「菓子? まぁた、手間暇かかる話だねぇ。まあ、いいさね。一味違うってところを、見てもらうよ!」

お市「菓子、ですか。ささやかなことなれど、何かを作るのは、何かを壊すよりはるかに尊いこと。では期待はせずに、お待ちくださいませ」

阿国「お菓子どすか? 年に一度、みぃんな血相変えはるなんて、けったいな話どすなぁ。せやけど、何やうちも血が騒ぎますえ。ほな、楽しみにしとくれやす〜」

濃姫「菓子? 作ってほしいの、血塗られた手で?……冗談よ。誰かさんや誰かさんに負けるわけにはいかないわね。果てるほど美味しいのを、食べさせてあげる」

くのいち「お菓子、お菓子ってなんだぁ? なーんてね。忍びの術で、痺れるほど美味しいのを召し上がっていただきましょうかね! にゃはん♪」

稲姫「お菓子、ですね。承知しました。あまり費用はかけられませんが、正々堂々、作ってご覧に入れましょう!」

ァ千代「菓子を作れだと? ま、任せておけ。完全な菓子を作ってみせる、それが立花の誇りというものだ。あぁ、私も甘ーい大福が……な、なんでもない!」

ねね「お菓子? そりゃもう、あたしにお任せ! いい子にしてたら、山ほど作って食べさせてあげるからね。でも、取り合いとかしたらお仕置きだよ?」

ガラシャ「菓子? 菓子とは、どう作るのじゃ? 孫に教えてもらわねば。この世には、まだまだ知らぬことがあるのぅ!」

妲己「へえ、お菓子なんてほしいんだぁ。そうねえ、人間世界にはありえない味を教えてあげる。私を、満足させてくれたらね」

結果編

そして2月14日。

甄姫「ほら、これでよろしくて? このわたくしが、誰の手も借りずに作ったのです。よく味わいなさい」
 それは、傾国の美女という肩書に似合わぬ、えらく素朴な外見と味わいだった。よく見れば、彼女の白魚のごとき指に無数の切り傷が刻まれている。
「ま、まあ……たまには厨房に入るというのも、新鮮でよろしいですわね」

孫尚香「お待たせ! どうにか間に合ったわね。これが修行の成果よ。食べたらもう、じゃじゃ馬とか言わせないんだから!」
 あなたの顔の真横に、一本の矢が突き立った。矢じりが、菓子でできている。味がどうとか言う前に、得意満面の彼女はやはりじゃじゃ馬であった。

大喬「お、お待たせしました。あまり自信はないんですが……お口に合いますか?」
 控えめな彼女らしい、それはそれは小さな菓子である。口に入れると、舌の上ではかなく蕩けた。だがありふれていても優しい味は、いつまでも舌に残るだろう。

小喬「はい、完成! 周瑜さまも口から泡を吹いて喜んでたよ! あたしのが絶対、一番美味しいんだかんね! お塩とお砂糖の区別が、途中で付かなくなっちゃったけど」
 お察しください。

月英『お約束どおり、期日に木牛にてお持ちしました。しかし、ただ召し上がっていただくのではつまらないかと存じます。試練をご用意させていただきました。ご健闘をお祈りいたします 月英』
 木牛の周囲で、あの虎戦車どもが回転しながら火を噴いている。命か、菓子か。今、貴方の愛が試されている。

星彩「作ってきたわ……けっこう難しいのね」
 一見、形も味も無難にまとめてある。しかし、噛み砕いた瞬間気付くだろう。中に、強い酒が仕込まれていることを。
「大人の味、って、これでいいのかしら……あなた、どう思う?」
 大人でもめまいがするような代物を、彼女は涼しい顔で摘んでいる。やはり、燕人張飛の娘であった。

貂蝉「どうぞ、お召し上がりください。ほら、口をお開けになって……うふふ」
 貂蝉は微笑み、手ずから、貴方の口に菓子をくわえさせてくれる。この世の天国であろうか。彼女のはるか後方から、赤い馬に乗った大男が迫っていることを除けば。

祝融「はははっ! 何、目を丸くしてるんだい? アタシだってね、たまには女らしいこともできるんだよ」
 白い歯を見せ、南蛮の女王は豪快に笑う。
 菓子作りは、火との勝負でもある。色鮮やかな飴細工は、彼女の色彩感覚と火力のなせる業であった。

お市「小豆ぜんざいを、作ってみました。小豆……両端を縛った小豆の袋で、お兄様に危機を知らせたことを思い出します……」
 みるみる、お市が沈んだ顔になる。小豆にこれほど辛い思い出がある人も、珍しい。

阿国「お待ちどうさんどす。ささ、ゆっくりおあがりやす〜」
 手渡されたのは、いかにも地元らしい、京菓子。それを楊枝で刺し、一口……たちまち、強烈な睡魔が襲ってくる。
「さ、うちと一緒に出雲へ――」
 ある意味、期待を裏切らない女である。

濃姫「ふふ、拍子抜けしたでしょ。どんなにおどろおどろしいものを作ってくるのか、って」
 差し出された菓子は、上品なつくりであった。さすがに魔王の妻はそつなくこなす。が。
「ああ、その中には赤蝮の粉末を入れておいたわ。そろそろ、欲しくてたまらなくなってくるんじゃないかしら。何が、とは言わないけど」
 笑う口元が、やけに赤く見えた――

くのいち「どろん! 今、あなたの目の前にはあたしの手作りお菓子が百個あります。しかし、本物は一つだけ。忍術で作られた偽物を選んだ瞬間、爆発するのだ! かっこい〜」
 どうしてこの世界の女性たちは、危険を伴うお菓子ばかり作るのだろうか。

稲姫「お待たせいたしました! 稲、全力で作ってまいりました!」
 勢いよく両手で差し出されたそれは……どう見ても干した携帯食料である。
「本多家秘伝にて、滋養も日持ちも抜群にございます。戦にて役立てていただければ、これに勝る喜びはございませぬ」
 確かに、彼女なら良き妻になるだろう……もう少し色気を増してくれれば。

ァ千代「……貴様、信じられないものを見るような目をするな。立花は完全なものしか菓子とは呼ばん」
 彼女のどこにそんな才能が……と思うような、精緻極まりない和菓子が眼前にある。
「と、とにかく。私を見ていないでさっさと食べろ。気が向いたら、また……貴様のために作ってやる」

ねね「ほーら、いっぱい作ってきたからね! 残さず食べて、早く大きくなるんだよ!」
 荷車に山と積まれた、手作りの菓子たち。彼女の前では、どんな男も子供扱いなのだろうか。と、ねねが怪訝そうに見つめる。
「ん? ああ、ここらで一杯のお茶が欲しいんだね? お任せだよ!」
 そういうことではない。

ガラシャ「書物で調べて、作ってみたぞ。菓子作りとは、なかなか奥深いものじゃな!」
 食べたこともない南蛮の菓子を、彼女はレシピを読むだけで作ってしまった。
「ところで、なぜ皆、そんなに菓子をもらえるのが嬉しいのじゃ? 大の大人まで……」

妲己「え? お菓子はどうした、って? よく見てよ、私の身体を♪」
 いつもの服が、何と飴細工でできている。つまり、裸体に水飴を塗りたくっているらしい。食べ物を粗末にするにも程がある。
「さ、舐めてもいいし、噛んでもいいのよ。というか、早くやってくれないと、ひ、皮膚呼吸が……」
 しかも詰めが甘い。

以上、時代的に無理やりな企画にお付き合いいただき、まことにありがとうございました。

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Written by◆17P/B1Dqzo