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激しくかき鳴らせばかき鳴らすほど、三味線の音色というものは哀しみを帯びてくる。弾き手の憂愁がさらけ出されるかのように。
長宗我部家の大坂屋敷から聴こえる調べに、道行く人は皆思わず足を止めていた。知らず知らず、涙を流す者さえいた。
屋敷の一室で、長宗我部元親はただひたすらにバチを三味線へと叩きつけている。顔色一つ変えてはいないが、彼の激情は何よりも音に出ていた。
それに合わせて、一人の巫女が軽やかに舞い踊る。決まった型などなく、思いつくままに足を運び傘を回す。それが当たり前のように、かつ美しく出来るのは、出雲の阿国をおいて他になかろう。
片や土佐の大名、片や巡業の巫女。ろくに顔も合わせられないはずなのに、二人はまるで同じ一座のように息が合っている。
ベベン、ベベベン――ベィンッッ!!
三味線から、ひときわ鋭い音色が鳴り響く。阿国は閉じていた傘をここぞとばかりに開き、前に大きく突き出した。そのまま、音一つ立てず、微動だにしない。
傘に描かれた桜が、静寂の中咲き誇る。
二人の即興は、鮮やかな幕切れを迎えた。
止まっていた時間が動き出したかのように、二人は傘をたたみ、三味線を下ろす。
「あぁん……久しぶりに元親様の三味線で舞えて、うち嬉しおす!」
阿国が喜びを隠さないのも道理だ。元親の我流の三味線は、彼女にとっては新鮮そのものだった。
「戦の前に、もう一度あんたと合わせられて良かった」
元親はそれだけボソッとつぶやいた。だが、口元にはわずかに笑みが浮かんでいる。心中には熱いものを持っているのに、なかなか表に出さない。石田三成とは違う意味で、誤解されやすい男である。
「戦……やっぱり、三成様にお味方するんどすか?」
「当然」
元親が大坂にいる理由。それは、西軍の一員として天下分け目の一戦に臨むためだった。当然、戦の準備に追いまくられている。このような時間を持てたこと自体、幸運なことと言えた。
「家康に傾いた天下の流れに、奴は必死に抗っている。それに手を貸すのが、俺の流儀だ」
阿国は、寂しそうに笑った。命を張ろうとしている男を止めるなど、野暮とは分かっている。けれど。
「ほんまに、うちの惚れる人は、命をぽんと投げ出すお方ばかりどすなぁ。せやけど、そこに惚れるうちが悪いんや」
ほな、と阿国は会釈して去ろうとする。その色白な手を、元親は引いて止めていた。己の手を包む、驚くほど強い力に、阿国は目を丸くした。
「違う。死にに行くわけじゃない。死んだら、あんたの舞が他の奴に盗られてしまうだろう?」
二人が、物も言わず向かい合う。共演は再び幕を開けた。
「元親……様、元親様ぁ」
黒髪を振り乱し、阿国が喜悦の鳴き声をあげた。
元親は胡坐をかき、阿国を膝の上に乗せている。『姫若子』と揶揄される細身だが、下帯一丁の裸体になってみれば、その身体つきは想像以上に男らしい。
巫女装束の胸元に手を突っ込み、汗ばむ乳房をやわやわと揉み解す。唇は首筋につけ、舌をちろちろと出して舐める。そのたびに、阿国は元親の名を甘い声で呼んだ。元親には、彼女の声こそが極上の調べに思えてならない。
「もっと、聞かせてくれ」
大きめの乳輪を指先でつまみ、少々強めにひねり上げる。かと思えば、じれったいくらいに優しく、乳房全体をさする。
「はぁあ、んっ、くぅん!」
今度は袴の上から、腿を撫でていく。じかに局部に触れずとも、微妙な指先の動きに、阿国は早くも太腿を擦り合わせていた。
彼は今、生ける楽器を確かに弾きこなしていた。
声がかすれるまで嬌声をあげさせてから、元親はようやく阿国を横たわらせた。緋袴を脱がせ、長襦袢をたくし上げると、奥では成熟した女陰が蜜を吐き、ほころんでいる。
白足袋を履いたままの片足を、高々と上げさせる。阿国の体勢は、まるで帆を張った船のように見える。その足を、元親は肩に担いだ。既に下帯はほどき、いきり立った肉棒が阿国の中心へと狙いを定めている。
「行くぜ」
「も、元親様ぁ……はようっ……あ、ああぁ――っ!!」
限界まで広げられた脚の間に、元親の陽物が深々と突き刺さる。
「今度はお前が感じてくれ……俺の律動を。ふっ、くっ……」
担いだ脚を揺さぶりつつ、自分も座ったまま巧みに腰を前後させる。強弱、緩急をつけて。音曲に見せる才能が、こんなところでも存分に発揮され、阿国を泣かせる。
土佐の荒波のように、快楽の潮は引いては押し寄せ、引いては押し寄せ、阿国をいずこかへと押し流してしまいそうになる。
元親が受け取る心地よさも、並大抵ではない。男を知り尽くした肉襞は、体位のせいもあってか、元親の分身を深くくわえ込み、ねぶり倒す。
淫水の混ざり合いと肉のぶつかりあいが奏でる曲も、いよいよ最高潮へと向かう。
「くうっ、お、俺をお前の一番深くに……刻み込む……!」
痺れるような射精への予感の中、元親は律動を加速させる。それを受け止める阿国も、畳をかきむしって叫んだ。
「はっ、はい! 遠慮せんといて、うちの中に……あふ、はひいっ! いんで、いんでまう――!」
二人の中で、大波が割れて砕けた。
荒い息と共に、元親は畳に倒れ伏した。阿国を背後からかき抱く。
「俺は……ますます死ねなくなったな……」
耳元で何事かを囁く。彼女は黙って、何度もうなずいた。
阿国から力を貰ったのか。元親の活躍は目覚ましく、関ヶ原は西軍の勝利に終わった。
戦後、元親は豊臣家により四国全土の支配を任された。だが家督を息子の盛親に譲って、ふらりと旅に出てしまった。時を同じくして、阿国も姿を消していた。その後、二人を見かけた者はいない。
数ヵ月後。
「この国の人間どもは、俺たちに猿でも見るような目を向けているな」
「ややわぁ、怖い顔せんといて。うちらがここにいるのも一期の夢。夢は楽しく見るもんや」
英吉利の『りばぷうる』という小さな港町に、元親と阿国はひっそりと暮らしていた。安い部屋の中、一つの毛布に包まり、霧に煙る町並みを眺めている。
ほとんど身一つで出国したのだら、生活は苦しい。それでも、聴衆が少しずつ増えていることが、二人には何より嬉しかった。
「ふ……道理だ。俺のために散っていった者たちの分まで。一度きりの生、凄絶に」
「一緒に……生きますえ」
歌と舞は、人を動かし世界を変える。二人は世界のどこに行こうとも、その真実を追い求めていく。
完
この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
凌統×阿国
遠呂智の淫謀 阿国編
Written by◆17P/B1Dqzo