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柴田勝家×お市

 門を叩いていた音が、やっとやんだ。柴田勝家は我慢に我慢を重ね、とうとう前田利家を迎え入れようとはしなかった。
 静まり返った室内で、独り黙々と盃を干す。そうでもしなければ、利家を呼び戻してしまいそうだった。
「……ん?」
 誰かが、横から酒をついでいる。そんなことも、気づいていなかった。そして、顔を上げた勝家の目が、豆鉄砲でも食らったように丸くなった。
 天下一の誉れ高き美女――お市が、酌をしていた。
「お市様……そんな、おそれおおい」
 とたんにかしこまる。とても『妻』に対するものとは思えぬ、慇懃な態度である。
 名目上は妻に迎えた後も、勝家は憧れのひとに手を出せなかった。信長横死後の成り行きで、この北ノ庄に身を寄せているだけ。それを守るのが自分の役目だと言い聞かせて。
「私を放っておいて、手酌ですか?」
 勝家がそんな反応をするのも承知の上なのだろう。涼やかな声で、どこか寂しそうに、お市が笑った。

 結局、二人で酒を酌み交わすことになった。頬をほんのり朱に染め、少しだけ喉を鳴らして飲む。そのしぐさに、勝家はつい見入ってしまう。不躾ながら、あらわになった細い脚にも。何をしても、彼女は絵になった。
 利家が門の前で大騒ぎしていたことは、お市も知っている。自然と話は彼のことに移っていた。
「次に利家と会うときは、敵味方なのですね」
「あやつには時代の重さ、今一度教えてやるつもりです。次代がサルめの一人舞台とならぬよう」
 お市が、真顔でうなずく。勝家の鋭い眼を、しっかりと見つめて。
 彼女のサル――秀吉嫌いは自他共に認めていた。容貌の問題ではない。頭の回転で成り上がっていく、その生き方が。彼は、不器用な武士(もののふ)の妻でありたかった。浅井長政がそうだったように。
 そして勝家もまた、不器用極まりない漢だった。戦働きに命を懸け、駆け引きなど頭になく、そして恋した女に『好き』と言うこともできない。

「ふう……少々、飲みすぎてしまいました……」
 杯を重ねるうち、お市はいつしか勝家の脇に座っていた。鬼柴田の逞しい胸板に、そっと肩を寄せる。勝家は急に天井を向いて黙りこくってしまった。微かに、花のようないい香りが漂ってくるのだから。
「今夜は冷えますね……」
 優しい声色が、ろくに管絃も聴いたことのない鼓膜をくすぐる。
 いくら勝家でも、お市の胸中を察することはできた。長政と死別してからというもの、若い身空でずっと孤閨を守っていたのだ。いかなる戦局でも動じることのない心臓が、苦しいほどに高鳴っていた。
 勝家はようやっと、お市の手を握った。その手は思った以上に小さい。うっかり力を込めれば、折れてしまいそうだった。
「わしでよければ、お市様のお役に立てるのであれば……」
 男・柴田は、上ずった声でそう言うのがやっとだった。

(お市様を、自分の寝室にお連れする日が来るとは……)
 スルスルと衣擦れの音をさせながら、お市が白襦袢を脱いでいく。それさえも、勝家には現実と思えなかった。
 やがて、足もとに襦袢が落ちる。自分を抱きしめていた腕を、お市はゆっくりと開く。北宋の白磁のような柔肌を、色づき薄い乳頭が飾っていた。草むらもごく薄い。しかし腰や腿に適度にのった脂は、彼女の女としての成熟を如実に物語っていた。月明かりに照らされる裸体は、変わらず清楚でありながら、寡婦の色香も漂わせていた。
 長政との営みがそうさせたのだと思うと、勝家は悔しいのかありがたいのか分からない。
「どう……ですか?」
「いや、その……」
 気の利いたことを言おうとするが、喉のところでつまってしまって、言葉にならない。だが、そこではたと気付く。
(ふ。わしとしたことが、賢しげにしようとしておるわ)
苦笑し、自らの頭を拳で小突く。
「……ご無礼つかまつる」
 丸太のような両腕が、一糸纏わぬ藤の花を包みこんだ。お市が、はにかみながら上を向く。夫婦となってから初めて、二人の唇が重なった。

 組み敷かれた布団の上で、お市が淫らに身をくねらせる。
「柔らかい……どこも、かしこも……」
「ん! ああっ……」
 武骨な指で乳房を揉まれるたび、お市は切なげに身をよじって鳴く。長政との間に五人もの子を儲けたとは思えないほど、彼女の膨らみは瑞々しい水蜜桃そのものだった。
(この乳房で、お子たちを育てられたのか……)
 そう考えると、ひとりでに唇が乳頭へと寄せられる。立派な髭を生やした大男が、赤子のように吸い立てる。月代を剃った勝家の頭を、お市は慈しむように抱きしめていた。

 お市の女芯は潤い、勝家の逸物は力強くみなぎる。今までずっとぎこちなかった二人は、ようやく本当の夫婦になる時を迎えた。
「お市様……参ります」
 八重の花弁を押し広げ、勝家は着実に前へと進む。
「勝家……んん、んあああっ!」
 数年ぶりの雄々しい衝動が、お市の中へと割って入ってくる。ぎゅっと目をつぶり、お市は勝家を快く迎えた。前夫との営みでこなれた肉襞は、いっぽうで変わらぬ締まりをも兼ね備えていた。奥に到達する前に、下手すれば放ってしまいそうになる。
 やがて、男と女は一部の隙もなく結合を果たす。とうとう、勝家は積年の思いを遂げた。
「おぉ、お市様っ」
 肉体的にはもちろん、精神的な限りない充足感に、言葉が続かない。過去も未来もなく、今の自分は世界で一番の果報者だと確信できた。
 こうしてずっと抱き合っていたいが、雄の本能が勝家を急かす。中年太りなどとは無縁の筋肉を総動員し、お市の奥深くに自分を刻みつけていく。もう鬼柴田は、戦場と変わらぬ雄姿を見せていた。
 そんな勝家に、お市もまた一人の女として心奪われる。玉の汗を飛び散らせながら、逞しい背中にしがみついていた。そして、思わず口走る。
「あっ、はっあああ! お願いです勝家、市と呼んで……!」
 勝家はわが耳を疑った。あまりにも恐れ多くて考えたこともなかった。お市を、夫として呼び捨てにするなど。
「え……コホン……い、市! 市ぃ!」
 声を限りに叫び、いっそう躍動は加速する。勝家は胡坐をかき、されるがままのお市を抱き上げた。その上に乗せ、思うさま突き上げる。
「ひうっ! す、凄いです勝家ぇ……これが武士の意地、なのですね……あはあ、ううんっ!」
 その表情は、いつもの儚げな様が嘘のように蕩けきっていた。あのお市が、口の端から涎まで垂らして悦んでいる。もちろん、下の口も。
 勝家はもう、何も言わない。彼の強さと優しさは、己が肉体で語り尽くしていた。お市をしがみつかせたまま立ち上がる。お市の桃尻をしっかとつかみ、立ったまま下から貫く。甕ならぬ子袋を割らんばかりの怒張でありながら、突き上げにはお市への配慮も忘れない。
 その雄姿、まさに鬼柴田といえよう。
「いい、いいです勝家っ! 市はもう、おかしくなって、果ててしまいますっ」
「お市様! 鬼柴田が魂、ご照覧あれっ」
 勝家はお市の唇を激しく奪い……最後の一撃を放った。肉襞すべてが鬼柴田を擦り立て、勝家はお市を子宮口寸前まで貫く。
「はああんっ――――!」
 北ノ庄城に、生命の叫びがこだました。若者に劣らぬ激流が、お市の胎内へと噴出する。それはとても収まりきらず、逆流してくる。
 ヒクつく尻の間から、どっぷりと白濁したものが、尽きることなくこぼれ落ちていた……

 激しい余韻はようやく去った。二人はゆるりと抱き合って、裸身を横たえている。
「わしはこの戦で武士の意地、通す所存です。ですが、お市様までお付き合いいただくことは……うむっ?」
 勝家の頬髭に、お市の唇が付けられた。
「子供たちには、生きてもらいます。私は――ふふ、武士の意地、共に興じましょう」
 誰かを真似た口ぶりに、勝家はこみ上げる笑いを抑えきれなかった。
「ふ……うわっはっはっは!!」
 やがて歴史は教えてくれる。二人が人生の敗者などではなかったと。

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この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
お市×伊達政宗  浅井長政×お市  遠呂智の淫謀 お市編

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Written by◆17P/B1Dqzo