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曹丕×甄姫

「ほらほら。道をお開けなさい!」
 一輪の花が、戦場をどよめかすこともある。五丈原の地において、蜀の兵たちは一人の美女を前に浮足立っていた。
 素顔の美しさを、品のいい化粧が更に引き立てている。玉のような素肌が、胸元や背中から大胆に覗いている。滑らかな美脚も、防具ひとつなくあらわになっていた。
 青と白を基調とした透けるような衣装は、戦場より夜会が似つかわしい。はっきり言えば、戦場を舐めている。そのはずなのに、熟練の兵たちは、彼女が手にした鞭の前に次々と打ち倒されていった。
 どうにか冷静になった兵士が、斬りかかる。だが、その刃が女に届くことはない。手首から薙ぎ払われ、地面に転がり落ちた。
 血しぶきと悲鳴を上げる敵兵には目もくれず、女は自分を救った者に熱いまなざしを向けた。
「我が君!」
 白馬にまたがり、馬上から剣を振るうは魏王・曹丕。他ならぬ彼女の夫である。
「甄に斬りかかるとは、命が惜しくないようだな」
 口調は淡々としているが、曹丕は先ほどから妻――甄姫の身を自ら守ってやっている。彼女が戦場に出れば狙われることを承知のうえで、そばに置いていた。妃を伴っての堂々たる進軍、それは図らずも魏の圧倒的優位を象徴していた。
 やがて、五丈原の台地を魏の旗が埋め尽くす。三国時代は終わったのだ。

 さすがに、休まず許都へ直行するのは厳しい。曹丕は甄姫を伴い、西の都である長安に入った。蜀の北伐に対する総司令部だったこの街も、これからは平和な文化都市として栄えていくだろう。
 人々の大歓声を浴びながら、曹丕と甄姫は長安城に入城した。王のためにしつらえられた優雅な寝室で、二人は雲を敷き詰めたような寝台に腰をおろし、ようやくくつろぐ。陽はまだ高く、治世の到来を祝うかのような穏やかな陽光が差し込んでいた。
「実感しますわ。新たな時代が始まるのですね」
『終わった』と言わないあたり、甄姫は曹丕の立場をよく心得ている。曹丕が新たな帝の座に就くのは時間の問題だろう。
「そうだ。漢室も、父も乗り越えた、新たな治世が。お前の女の戦いも、見納めだと思うと寂しくなるがな」
 曹丕の唇の端が、吊り上がっていた。甄姫の顔が、ぱっと紅潮する。
「だって……わたくしにとっても、負けられない一戦でしたもの」
 どちらの夫が優れているか、甄姫は月英と激しい舌戦を何度も繰り広げた。最後は力づくで。その異様な気迫は、両軍の男どもが遠巻きに見守るほどだった。
「ふ……お前の顔に、泥を塗らずに済んだようだ」
 まるで女王のような風格を持ちながら、自分のためにムキになる。そんな妻が、曹丕には可愛くてならなかった。
「来るがいい」
「はい」
 手招きする曹丕の胸に、甄姫は飛び込んだ。涼しい視線と視線が絡みあい、熱を帯びてくる。
「んふっ……」
 やがて二人きりの寝室に、互いの唇をついばむ音だけが静かに響く。曹丕は甄姫の肩を抱き、懐に引き寄せる。とても手のひらに収まらない胸を、衣の上から丁寧に揉みしだく。その手は徐々に下へ下へと動き、むっちりとした腿の間に差し込まれる。膝を、ふくらはぎを、いたわるようにさする。
「ああ……我が君の手、とてもお優しいですわ……」
 甄姫は鼻にかかった、甘い声を上げる。二人はやはり、ともに思い合う夫婦に違いなかった。
 接吻を続けながら、曹丕は妻の上着を器用に脱がせていく。ただでさえ目立つ豊乳が、さらに彼の目に飛び込んでくる。それでいて、肩や腕は驚くほどに華奢なつくりをしていた。愛しさがさらにこみ上げ、接吻にも熱がこもる。
「はあっ、はあっ……」
 ようやく唇を離したときには、甄姫の唇は二人の唾液でてらてらと輝いていた。その唇を、彼女はこれから夫に捧げる。

「あむっ……れろっ、じゅるっ……」
 寝台の端に腰かけた曹丕の股に、甄姫は花のかんばせを埋めていた。頬をいやらしくすぼめ、ねっとりじっくり舐めしゃぶる。彼女の上着はすでに脱ぎ捨てられ、胸と腰を覆う下着のみを身に着けていた。絹製の豪奢な代物で、身体を冷やしてしまうのではないかと思うほど面積が小さい。ほとんど、彼女の豊満な胸や尻の飾りと化している。
「いいものだな……お前の髪は……」
 彼女の見事な黒髪を、曹丕は優しく撫でてやる。滑らかで、つややかで、いくら撫でても飽きが来ない。この、女の命を維持するのは、服や宝石で飾り立てるより難しい。
 それに、彼女の貪欲にして繊細な口技もまた、ただものではなかった。名門の出でありながらそれにあぐらをかくことなく、女の技を磨いてきているのだ。
 裏筋や雁首を這い回る舌の動きに、曹丕もたちまち追いつめられていく。押し寄せる快感に、珍しく眉間に皺を寄せている。気を紛らわそうと、彼女のすべすべの背中を撫でるが、無駄だった。ここ数日で溜まりに溜まった欲望が、竿の中を駆け昇っていく。いかに高度な理性の持ち主であろうと、それを押しとどめることなどできない。
「うっ、出すぞ、甄!」
「んっ、んんんっ!」
 甄姫はこくこくと、首を縦に振る。それを見た瞬間、曹丕の背筋にゾクゾクと痺れが走る。鈴口に迫っていた濁流は、狭い出口を求めて殺到し……外界に飛び出した。
「ぬぅ、おおおっ!!」
「うぐふううっ!!」
 喉の奥にぶちまけられながら、甄姫は一滴もこぼすことなく飲み下していく。冷徹に思える彼の精も、やはり、熱い。その熱は彼女に伝わり、身体の芯を熱く疼かせた。
 曹丕が、欲しい。正直な思いが、高価な下着の股間部に大きな染みを作らせていた。もどかしくなり、自ら手をかける。濃紺の布切れが、丸まって舞い落ちていった。

「我が君……今日はわたくしから……」
「好きにするがいい」
 純白の布団のまん真ん中に、曹丕は着衣のまま大の字に横たわった。
 そっけなく言い放っても、曹丕は妻の圧倒的な官能美から目を離せない。毬を二つ押し込んだような双乳は、頂点が淡く彩られ、吸いつきたくなってくる。腰はどこに内臓が入っているのかと思うほどきゅっとくびれ、発育豊かな臀部へと繋がっていく。もちろん、恥毛の手入れも怠りはなかった。
 そんな彼女を見ているのだ。発射したばかりなのに、剛直は早くも復活していた。その上に、下着を脱ぎ捨てた甄姫がまたがり、竿に手を添え、女陰へと導く。
 じりじりと、味わうように腰を落としていく。天下分け目の決戦が続いていたから、交わるのは本当に久しぶりだった。
「ああ、いっぱいに、いっぱいになってしまうっ」
 甄姫はあられもなく、嬌声を上げた。曹丕の男性自身は取り立てて物凄いわけではない。それでも、彼女の身体にこれほどぴたりと吸いつくような相性のものは考えられなかった。
「ああ……! やはり我が君にかなう殿方など、いるはずがありませんわあぁっ」
 乳を上下に揺らし、髪を振り乱し、甄姫は曹丕の上で跳ねる。曹丕もさせっぱなしではない。腰をつかんで、力強く突き上げる。甄姫は身体の奥まで蕩け、腰ががくがくと震え、上半身をぐったりと倒してきた。それがいっそう、彼女の美貌と双球を曹丕の目に飛び込ませてくる。
「無理はするな。私に任せておけ」
「きゃっ!?」
 甄姫を抱きしめると、曹丕は自分の下に組み敷いた。やはり、いつまでも受け身では男の沽券にかかわる。きょとんとしたままの甄姫を下にして、曹丕は激しく杭を打ち込みはじめた。女蜜に潤う秘洞の中を、涼しい顔をして貫き通す。
「あっ! やっ! わ、我が君、激しひいいっ!? あはあっ、はひっ!」
 責める願望もあれば、責められる願望もある。両方を続けざまに満たされ、甄姫は恥じらいもかなぐり捨てて鳴き叫ぶ。曹丕もまた、素顔のままの彼女に一層高ぶってくる。口に出した時と変わらぬ量の熱情が、再び精巣からこみ上げるのが分かった。
「甄、私の甄よ。受け止めてくれ、私のすべてを」
「はいっ、はいっ! 我が君、いつでも、お好きなだけえぇっ」
 何度もうなずく甄の唇を口づけでふさぎ、曹丕はとどめとばかりに一番奥まで突き込んだ。その摩擦は、互いの限界を容易に超えさせる。
「んんんん――っ」
 夫としての務め――ありったけの精を甄姫の中に解き放った。下がってきた子宮口めがけて、白い奔流がドクドクと叩き込まれる。夫婦としてこれ以上はない、至福の爆発であった。
 静かに互いを抱きしめ、余韻に浸る。陽光差し込む寝室に、横たわる二人の息遣いがいつまでも聞こえていた。

 事を終え、二人はぴったりと寄り添う。お気に入りの黒髪を撫でながら、曹丕は甄姫の耳元に囁く。
「戦場で出会った日のことを、覚えているか? 有能だからこそ、私はお前が欲しかった……そう思っていた」
「あら、違ったのですか?」
「よく分からぬな、今となっては。もしかして、戦場でお前を見かけた瞬間から……」
 見た目で人を判断するなど、あってはならない。才能のみがすべての基準。理知的な、悪く言えば理屈っぽい曹丕には信じられなかったが、今さらにして思う。一目惚れだったのかもしれないと。
 それがひどく恥ずかしく思えて、曹丕は途中で言葉を濁してしまった。
 甄姫はその胸中を察して微笑む。
「どんな理由でも、構いませんわ。わたくしを選んでくださった、その事実さえあれば」
 曹丕は黙って、自分の頭をかくだけだった。

「も、申し上げます!」
 突如、扉の外から兵の大声が響き渡る。
「どうした」
 乱世が去ったというのに……さすがの曹丕も顔をしかめる。だが、事態は無視を許さなかった。
「許昌で司馬懿殿が、司馬懿殿が……!」
「……そうか」
 それだけで、曹丕はすべてを察した。主君の不在を狙い、奴が反旗を翻したのだと。
 蕩けきっていた甄姫もまた、緊張に顔をこわばらせる。しかし心の片隅では、自分の戦う姿を見てもらえる喜びもふつふつと湧きあがっていた。
 急いで身支度をする。盗み見る甄姫の着替える姿もまた、曹丕には魅惑的だった。見ているだけで、詩が湧いてくる。それは、乱を鎮めてから詠むことになろうが。
「行くぞ、甄よ。新しい時代のため、今少しお前の力を貸してほしい」
「もちろんですわ。我が君のお側なら、どんなに過酷な戦であろうと」
 二人は連れ立って、寝室の扉を開いた。次代はもう、目の前にある。

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この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
曹仁×甄姫  濃姫×甄姫  遠呂智の淫謀・甄姫編

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Written by◆17P/B1Dqzo