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曹操×女禍

 人類は再び、魔王・遠呂智に勝利した。
 その晩、盛大な宴が張られた。この日だけは勢力間の駆け引きを忘れ、皆存分に飲み食いしている。
「諸君、このたびは魔王打倒によくぞ力を貸してくれた! 思えばこの袁本初も友の檄に応じ、最前線に立ち、迫り来る化け物どもをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」
 主催の袁紹が裏声でくどい挨拶を続けているが、それも忘れて。
「張文遠、ただ今戻りました」
「うむ。お主が関羽の助太刀したこと、わしも嬉しく思うぞ」
「曹操様ぁ、おいらも呉でがんばっただよぉ」
「ははは、ご苦労だった。腹も減っておろう、遠慮せず平らげてまいれ」
 本当に人の輪の中心にいたのは、曹孟徳その人だった。蜀・呉・信長。彼の発した檄文が、今まで敵対していたあらゆる勢力を動かし、魔王を倒す原動力となったのだ。

 その人の輪をすり抜け、一人の女が曹操の眼前に立った。静かに、頭を下げる。流れるような銀髪と、この世のものとも思えぬ奇抜で蠱惑的な服装が、いやでも目を引く。
 曹操に遠呂智打倒を依頼した、女禍である。
「遅くなってすまない」
「おお、女禍よ。遠呂智のほうはもう済んだようだな」
 曹操の声が、心なしか弾んで聞こえる。
「すでに倒した相手を封印するだけだったからな。特段難しいことはなかった……」
「世話ンなりました、女禍さん!」
「遠呂智を相手に美しき剣技――この張儁乂、心震わされましたよ」
 相手が仙人だというのに、人間たちは女禍に群がり、気軽に声をかけてくる。
 最初、人間側は謎多い女禍を警戒し、女禍も人間たちを見下すところがあった。だが幾多の戦いを経た今は、彼女も苦楽を共にする仲間だった。
 それでも、女禍の対応はぎこちない。笑顔がひきつっている。
 見かねた曹操が、助け船を出した。
「来たばかりの客人に、いつまでも立ち話させておくものではない。まずは、落ち着かせてやれ」
 軽い口調の中にも有無を言わせないものがある。皆、シュンとしたが、おとなしく引き上げていった。女禍は思わず、ため息をついていた。
「あやつらも、悪気はないのだ」
「分かっている。しかし……できればもう少し、静かなところがいい」
 曹操は、一つうなずいた。それからしばらく後。二人の姿は、宴の席から消えていた。

 結局、曹操の部屋で月見酒と相成った。とびきりの美酒を互いに注ぎ、これまでの道のりを肴に飲む。
 曹操は、戦いの日々を実に楽しそうに振り返る。突然世界が融合したあの日から、一度は死にかけ、復活を果たし、そして謎の美女と出会った。それらは、まるで一遍の詩のようであったと。
 いつしか、女禍はまじまじと相手の顔を見つめていた。
「どうした、女禍よ。わしの顔に何か付いているか」
「いや。今、目の前にいる男が、曹孟徳とはどうしても思えないのだが」
 曹操はにやりとした。
「よく言われる。わしとて、いたって普通の人間。ただ、少しばかり悪知恵が働くだけよ。そういうお主も、仙界の住人という割には身近に思えるが」
 今度は女禍が吹き出した。
「人間たちが、勝手に仰々しく想像しているだけだ。この姿も悪くないだろう?」
 胸元を、自ら指差す。見事な谷間が刻まれた双球は、日焼けなどとは無縁の白さを誇っていた。
「うむ。お主が半人半蛇などでなかったことに、感謝したいくらいだ」
 つい、曹操も本音を漏らした。
「それも、遠呂智が倒れた今、見納めとなるのか」
 女禍は首を横に振った。
「いや……私ももう少し、お前を見ていたい。遠呂智が融合させてしまった二つの世界を元に戻すことは、仙界にもできまい」
 静かに立ち上がり、曹操の傍らに座り直す。
「だが、お前が中心になれば……よりよい世に変えていけるはずだ」
 頬を少しだけ赤く染めて、曹操にもたれかかる。『近寄るな』が口癖の彼女にしては信じられない行動だった。
「仙人も酒に酔ったりするのか」
「馬鹿を言うな。本気だ。今夜はお前のことを、もっと知りたい。ふふ……人間のことなら、何でも知っていると思っていたのだがな……あ……」
 少々強めに手を引っ張られ、女禍は曹操の腕の中に倒れこんだ。見上げるその目は、期待と不安に潤んでいる。自信に満ちた皮肉屋の彼女は、どこにもいない。
「では、期待にこたえるとしよう。今も、これからもな」
 曹操は、女禍の唇をためらうことなく奪った。仙女の唇は、思っていたよりずっと小さかった。その小さな唇から、熱くかぐわしい吐息が漏れる。
「んふ……ん……ま、待て……」
 舌を吸いながら服を脱がそうとすると、女禍が曹操を手で制した。いぶかる曹操の前で立ち上がる。
「面白いものを見せてやる」
 その場で女禍は、くるりと身をひるがえした。
 一瞬で、衣装が蛍のような光の粒と化した。光の粒は生じるそばから闇に溶けて消えていく。後に残ったのは、闇の中でもまばゆい、女禍の裸身だけだった。象牙を削り出したように、シミひとつなく滑らかな白い肌。はち切れんばかりの乳房。ほっそりした長い脚。それらからは想像もつかない、無毛の一本筋。どこか作り物めいてさえいる、理想的な造形だった。
 女禍を脱がす楽しみがなくなってしまい、曹操は少し残念だったが、脱がすのに骨が折れそうなのも事実だった。おまけに、頭の上には正体不明の輪まで浮かんでいる。あれはどうすればいいのか、いまだに分からない。
「いつも見事だと思っておった。これも、お主の思い通りの姿というわけか」
「当然だ。最上の姿を見せるのが、お前への礼儀というものだろう? さあ、来るがいい」
 寝台に仰向けで横たわり、女禍は唇を舐めつつ手招きした。腰をゆっくりとくねらせ、剥き出しになった乳房を自らの手で軽く揉みしだく。妲己にも引けを取らない、淫靡な身のこなしだった。
 曹操は服を着たまま寝台に乗る。無防備な女禍に上から覆いかぶさった。間近で見ると分かる。大胆に見える女禍の身体が、小刻みに震えていることを。それがまた、可愛らしく思えてくる。
 再び唇で唇をふさぎながら、手のひらは女禍の胸元へと伸びていく。触れると、美乳はとても温かい。口内を舌で蹂躙し、指に力を込めるにつれて、乳肌はますます熱くなり、汗ばんでくる。
 色づき薄い先端も、むくむくと尖ってくる。それを軽くつまみ、ひねり上げる。
「んはあぁ! ……こ、この私がっ、ああんっ、だ、駄目っ」
 たまらず、女禍は首を振って悶えた。曹操はさらにたたみかける。留守にしている方の乳首を口に含み、吸い立てる。舌と歯を駆使して、ねちっこく。女禍は喉をさらしてのけぞった。
「あっ、ああ――っ……馬鹿な、この私が信じられん……やっ、あうんっ!」
 曹操は胸を揉んでいた手を、下へとずらしていく。飾りをつけた淫靡なへそを一撫でしてから、腿をさすり、徐々に女の核心へ滑り込んでいく。
「わしも信じられん。お主ともあろうものが、床の上では生娘同然。演技ではあるまいな?」
 無毛の聖丘を越え、指先が小さな小さな尖りをとらえた。指の腹で、傷つけないように押しつぶす。
 女禍の腰が、大きく跳ねた。
「はぅうっ! あっ、そこは弱い、久しぶりだからあっ」
 仙人としての矜持ゆえ、地上に降りてからの女禍は男女の交わりからとんと御無沙汰していた。遠呂智を倒すまで、そんな気分になれなかったということもある。
 そして久々の相手が、幸か不幸か曹操だった。軍人や政治家としての面ばかり強調される曹操だが、男女の道も人並み以上に楽しんでいた。乳首を這い回る舌遣いや、秘裂をえぐる指さばきに、彼の床上手がうかがえる。
「嘘だ、こんな、受け身に回るなんて……ひいっ、やめ、本当におかしくっ」
 相手が男だろうと女だろうと攻めてきた女禍は、曹操も床の上で翻弄するつもりだった。それが、馬鹿正直に秘裂から蜜まで垂らす様と化していた。自分で自分が信じられなかった。不快ではない。新鮮な興奮が、身体の芯まで疼かせる。固くこわばっていた身も心も、雪解けのように蕩けていく。

「強情を張ることはあるまい」
 曹操は、力の抜けた女禍をうつぶせに転がした。腰をつかんでぐっと持ち上げる。真っ白な尻肉の狭間が、しとどに濡れそぼっているのが、容易に見て取れた。
「ま、待って……んあああ!? そ、曹操、やめろ、汚いからっ」
 秘裂を襲う長く濡れそぼったものが舌だと、女禍はすぐに気付いた。四つん這いにされたうえ、後ろから局部をしゃぶられているのだ。女禍はたまらず振り向いて抗議した。しかし、本心で拒んではいない。そのままの体勢を、取り続けているのだから。
 あとからあとから湧き出す恥蜜は、曹操の口髭までベトベトにしていく。その味は、まるで飲み飽きない果実酒のように曹操には感じられた。
 女禍の脚が、ガクガクと震えている。気持ち良さのあまり、尻を上げているのもきつくなっていた。
「そろそろ、頃合いよなあ」
 曹操はひとりうなずくと、陽物を表に出した。仙界の美女を思う存分味わい、触れられてもいないのに準備は万端整っている。
 熱く火照った二枚貝の狭間に、魏王の肉剣があてがわれる。硬質な感触に、女禍は思わず振り向こうとした。その刹那。
「はおおぉぉっ――!!」
 ズブズブと、媚粘膜の中を曹操の陽物が貫き始めた。それも、獣のような体位で。気位の高い女禍は、いつも上に乗って腰を振っていたというのに。
「うむ……狭く、熱く、柔らかい。申し分なき具合よ。わしも猛ってくるわ」
 口調は静かながら、腰の激しさは一気呵成と呼ぶにふさわしい。パンパンと尻を打つ音が、軽快に響き渡る。
「いや、いやあっ! な、なんという格好……だが、それがいい、それがいいのぉ、曹操っ」
 女禍は口からつばきを飛ばして、うめいた。乳房も汗を飛び散らせつつ、突かれるたびに前後にプルンプルンと揺れる。一人の女として男に征服されるのが、これほど新鮮とは思わなかった。自ら、覇王の逸物を締め付けてさえいることに気がついた。
 新鮮な感慨は、曹操もまた同じだった。肉襞の一つ一つまで意のままにしているかのような動きは、かつて味わったことがない。
「ぬうっ、共に行くか、女禍よ」
 意外なほどの腕力で、繋がったまま女禍の上半身を起こす。胡坐をかく曹操の上に座る形になると、抽送の方向が前後から上下ヘと激変した。もう、女禍も耐えきれるものではなかった。胸をあさましく揺らしながら横を向き、接吻をせがむ。
「あああっ! お願い、一緒に来てえぇっ、んちゅうっ」
 もちろん曹操もそれに応え、狂おしく唇を奪う。
 やがて、歓喜の爆発が女禍の中で湧きあがる。重力をものともせず噴き出す白濁は、すさまじい勢いで内壁に浴びせられた。後から後から、止まることを知らない。
「おぅふう! で、出てる、私の中にお前のがいっぱい――! はひいいっ――」
 互いの存在を存分に噛みしめながら、二人は一緒に上りつめた。

「それで、あの女はそれきりいなくなったのか」
「うむ。力を貸すと言ってくれたが、それはわしの望むところではない」
「だろうな。お前なら断ると思った」
 翌日からもう、曹操は新世界の秩序のために動き始めた。隣では夏候惇が、護衛も兼ねていろいろと手伝っている。
 あの後。余韻さめやらぬうちに、女禍は裸身を光の粒に変えて消え去った。結局、それが見納めとなった。その美しさと去り際の微笑みを、曹操は生涯忘れないだろう。
「あやつは仙界から、わしのことを見ている。笑われぬ世を作らぬとな」
 そのとき、一人の女官がすれ違った。どこにでもいるありふれた娘が、ふっと皮肉っぽく笑った、気がした。思わず、曹操は振り向く。その後頭部に、光の輪は浮かんでいないかと。
「どうした、孟徳」
「わしのことを見ている……か。ふっ、気のせいだ」
 曹孟徳は再び、前を向いて歩きはじめた。

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この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
女禍×太公望  遠呂智・妲己・清盛×女禍

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Written by◆17P/B1Dqzo