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寝返り工作も功を奏さず――徳川家康は、関ヶ原に倒れた。西軍諸将は大坂城にて豊臣秀頼に拝謁。それから数日のうちに、論功行賞が行われた。
今、三味線弾きの男と短髪の女が大坂城から連れ立って出てくる。宴会に呼ばれた芸人ではない。三味線弾きは土佐の長宗我部元親、女は筑後の立花誾千代。れっきとした大名、そして西軍勝利の原動力であった。
「貴様は四国、立花は肥前・筑後の主か。だが、浮かれている暇はないな」
「当然だ。反骨だけで生きるわけにはいかなくなった。しばらくは己の領地をしっかりと固めなければなるまい」
元親のもっともな言葉を聞いて、なぜか誾千代の顔が曇った。相手の横顔をちらりと見やって、ぽつりと口を開く。
「一つ、頼みがある」
「何だ」
「土佐を、見物させてくれないか」
この場で、いきなりの申し出だった。一般庶民が遊びに行くのとはわけが違う。それなのに、元親はすぐ結論を出した。
「派手なもてなしは期待しないでくれ」
その言葉が、誾千代にはこの上なく嬉しい。笑みを浮かべ、大きくうなずいた。
「ああ、分かっている。無理を言っているのはこちらなのだからな」
かくして誾千代は、わずかな供廻りだけを連れて、海路土佐へと向かったのだった。
今や無二の盟友となった立花家当主は、本人の予想をはるかに超えて歓迎された。女でありながら、命を賭して戦った心意気を、誰もが高く称賛していた。それが誾千代には、少々照れくさかったのだが。
宴も、決して粗末なものではなかった。大皿が何枚も出てきて、皆で飲みながらそれを平らげていくのはなかなかに楽しい。それに元親の三味線が加わるのだから、何の不満があろうか。
そんな土佐の夜はあっという間に過ぎ、誾千代も宿へと戻り、床についた……はずだった。
「――行くか」
誾千代はむくりと起き、袴に着替えはじめた。草鞋を履くと、忍び足で宿を抜け出した。
今の彼女は、胸元を鷲づかみにでもされなければ、男の武士となんら変わるところはない。それにしても、何をしようというのか。
しばらくして。
誾千代は荒波が打ち寄す、人気のない岩場に来ていた。真っ暗な海を黙って眺め、波の音に耳を澄ませている。表情は穏やかで、別に入水自殺しようというわけでもないらしい。
と、誾千代は急に袴の帯を解き始めた。袴がストンと落ちると、長く白い脚があらわになる。その後も、着ているものが次々に岩の上に舞い落ちていく。最後に、足袋と草鞋も脱いだ。誾千代は、一糸纏わぬ全裸になった。大胆にも屋外で。
女性にしては長身で、胸も尻も立派に発育している。かなりの大きさ、重さのはずだが、ツンと上向いてまったく重力に負ける様子がない。そんな中、赤子のような無毛の股間がひときわ目を引く。体質で生えてこないのだろう。
素足で勢いよく駆け出し、土佐の荒海に頭から飛び込んだ。水中に全身が沈んでから浮上し、頭だけを水面に出す。すぐに身体をいっぱいに使って、力強く華麗に泳ぎだした。こんなことを、しばしばやっているらしい。大きく腕を回すたび、胸が水中で妖しく揺れる。さらに、存分に脚を開いての平泳ぎである。後ろから見たら大変なことになっていた。
「ははは！ ここの海は荒々しくて心地よいな」
背泳ぎしながら、珍しいほど無邪気に笑う。水面にぷかりと浮かんだ二つの島が、なんとも悩ましい。
「いい思い出ができた」
論功行賞により、九州の勢力図は激変した。筑前の『あの』小早川秀秋は、裏切りかけたことを咎められなかったばかりか、黒田如水・長政の備前を獲得。肥後では小西行長が加藤清正を滅ぼしていた。そして、薩摩の島津義弘は本領安堵。敵対勢力はいなくなったが、決して一枚岩とはいえない。これからは文字通り、忙殺されることになる。
その時、遠くから三味線の音が響いてきた。先ほど宴で聴いたのと同じ、寂寥と情熱の入り混じった音色が。
「元親……か？」
吸い寄せられるように、誾千代は音の聞こえる方へと泳いでいった。
元親も、今夜は何だか眠れなかった。城を抜け出し、波打ち際を散策しながら三味線を弾いていた。その音色は、今までになく穏やかに響く。
「こうして再び、土佐の月を眺められるとはな」
次の時代のため、自分が犠牲になることも、当然元親は覚悟していた。命とは、捨てることを惜しんでいては武器にはならない。
とにかく、元親は生き残ることができた。再び、四国の主として。それが自分一人の力でないことを、この鳥なき島の蝙蝠は今更ながら痛感していた。
「たとえば立花が、傷つくのも恐れず隣で戦ってくれたからだ。今あそこで暗闇の中を泳いでくる、女のように……？」
さすがの元親も、目の前の現実が信じられず、首をひねった。この真夜中に、裸の女が海から上がって、岩場を歩いてくる。髪は短く、全身が引き締まっていて――
「何をしている、立花」
そんな女は一人しか知らない。果たしてそれは誾千代だった。
「も、元親！ なぜ分かった」
見られるとは思っていなかったのだろう。だが元親は、夜でも恐ろしいほど目が利く。
「その、あれだ。昼間見た海があまりに美しかったのだ。つい、泳ぎたくなって……ふ、服を着るからあっちを向いててくれ」
その言葉が聞こえないかのように、元親はつかつかと歩み寄ってくる。今はまさに丸腰、さすがの誾千代も背筋が寒くなる。
「おい、聞いているのか！？ 私は女ではなく立花だとはいえ、やはり女で」
完全に声が上ずっている。
「俺は、今のお前の姿に心動かされた。常日頃一分の隙もないお前の、そんな無防備な姿に」
「あ……ああ……」
誾千代は後ずさろうとするが、足が震え、その場にへたり込んでしまう。胸の先端をかろうじて腕で隠し、脚をぴっちりと閉じるのが精いっぱいだった。もしこれが他の男なら、裸のままでも全力で逃げているだろう。
涼やかな目鼻立ち、華麗なバチさばき、そしてここ一番で見せる根性。はっきり言えば、誾千代は元親に惚れ込んでいた。そんな相手にすべてを見られてしまったからこそ、いつになく激しく動揺している。鎧の下に隠した乙女心はずいぶんとウブなものだった。
誾千代の片手を、元親はかがんでそっと握る。
「拒むか？……ならそれでもいい、俺は何もなかったように後ろを向くだけだ」
視線をそらしながら、誾千代は震える声を絞り出した。
「べ、別に拒んでなどいない！ これも、運命の帰結だ……ただ、こういうことは初めてだから、どうすればよいのか」
「……そうか」
元親にしても、返す言葉に困る。だから、とりあえず言ってみた。
「凄絶に痛いぞ」
とたんに誾千代の顔が引きつる。
「そ、そうなのか！？」
「嘘だ。男の気配りで、ずいぶんとましになる」
誾千代が安堵のため息をついたその時、元親はそっと覆いかぶさり唇を重ねた。
「ん……！」
誾千代は目を丸くしたが、やがて胸を隠すこともやめ腕を元親の背に回す。彼女の唇は、この上なく柔らかく、少しだけ潮の味がした。舌で舌をとらえ、絡め、その間に銀色の糸がかかる頃には、誾千代の頬もすっかり紅潮していた。
岩場の奥まったところに、元親は誾千代をいざなう。岸壁にもたれさせ、たわわな果実を優しく揉みしだき、舐めあげ、舐め下ろす。
「あぁ……くんっ！ はうっ……」
膨らみが唾液に塗れるにつれ、誾千代の息は荒さを増す。乳首も一層ツンと尖ってきた。
「あの鎧にこの胸を押し込んで、きつくはないのか」
「正直なところ、少々……鎧は、女としての私も封じ込めているのだな……」
身体の力が入らなくなってきたところで、元親は誾千代を座らせ、今度は脚を開かせる。膝を立てた状態での、メリハリの利いた脚線が実に美しい。そして、女の核心が姿を見せる。顔を寄せてみるとまったくの無毛であることに、元親は驚いた。
「あ、あまりジロジロ見るなっ！」
両手で顔を覆い、誾千代は金切り声をあげる。手で秘所を隠さないあたりに、彼女の焦りがうかがえた。
「思った以上だな……美しい」
縁に指をかけ、開いてみる。内部粘膜は美しい桜色をしていた。襞は左右完全な対称で、男を知っているようには見えない。元親は何のためらいもなく、そこに口をつける。
「アッ、アッ！？ き、汚いからやめろっ！ んあ、あひいいっ」
「いい声で鳴いてくれる……俺はお前の、そんな声も好きだ」
上の口以上に情熱的に、元親は下の口を吸い立てる。潮の匂いに似ているが、わずかに異なる匂いが元親の鼻腔をくすぐる。誾千代の身体が、悦び始めているのだ。
「そっそこは！？ はおうっ、む、剥いちゃダメえっ、強すぎるのおっ」
さらには一番敏感な豆の皮を剥かれ、舌先で嬲られる。ろくに耐性のない誾千代は、尻をカクカクと前後に振って、素直に反応を示す。自ら美巨乳を鷲づかみにして、下半身から来る快楽と同調させていた。
牝汁が濃さを増し、会陰をしとどに濡らすに至って、元親はすっくと立ちあがった。相変わらず無表情だが、服の下でギンギンに硬直する逸物が、彼の興奮を物語っている。細身に似合わぬその威容に、誾千代は息をのまずにいられない。
「うっ、それが……私の中に収まるというのか？」
「ああ。男と女だからな」
『女ではない、立花だ』とは、さすがの誾千代も言えなかった。否定しようのない事実が、今ここにある。
元親に尻を向け、誾千代は岸壁に手をついた。
下が岩場なので、誾千代を下にしては彼女が痛い。かといって、いきなり元親の上にまたがる勇気もない。結局、後ろから貫かれることを選んだ。それはそれで大胆な気もするが。
海水に濡れる尻をつかみ、元親が剛直を無毛の秘裂にあてがう。それだけで、誾千代は不安そうに後ろを向いた。元親は、何も言わずうなずく。誾千代もうなずき返した。その直後、元親は腰を押し進めた。少し奥で、抵抗を感じる。そこはどうしても、突き抜けねばならない。今まで味わったこともない強引な拡張に、誾千代は強く唇を噛む。
「あ……ぐっ……！！ お願い、一息に……っ」
だが、さすがは死線をくぐり抜けてきた雷神の娘である。痛いとか抜いてとか、泣き言一つ言おうとはしない。
やがて、結合は最後まで届いた。
「全部、入ったぞ」
「そうか……死ぬほど痛くは、ないな」
「俺のうぬぼれでなければ、お前が俺を受け入れてくれた証――だろう？」
破瓜の血が、内腿を伝い落ちる。疼痛はあるが、我慢できないほどでもない。誾千代の身体が成熟していたことも幸いしたのだろう。
誾千代の様子を見ながら、元親は少しずつ動く。彼女の肉襞は、激しく律動させなくても心地よい。
「上等……上等だ、立花」
「はふうっ！ も、元親ぁ、私の一番奥まで、奥まで来てるっ」
美巨乳が前後にタプンタプンと揺れるのを見、初々しい嬌声を聞かされると、元親もますます興奮してくる。土佐の潮騒を伴奏にして、二人の交わりはさらに熱くなる。
「はうああっ……わ、私ぃ……ああ……んああ……」
口から涎を滴らせ、誾千代は女としての反応を如実に示していた。小刻みに擦られたり、奥まで一気に突かれたりするうち、身体の中を、雷切が何度も突き抜けているようだった。自分が何者かなど、どうでもよくなってくる。
「――出そうだ」
元親が誾千代の耳元で囁くと、裸身がひときわ大きく震えた。何の事だか、生娘なりに察したらしい。
「は、はひっ、出して！ 後から悔やまないようにっ！」
して後悔することより、しなくて後悔することの方が多い。誾千代の言う通りに、元親はこらえていたものを最奥で解き放った。
それは、秘めたる情熱の奔流と呼ぶにふさわしかった。誾千代の胎内に、潮が何度も何度も浴びせられる。
「あぁ――――っ！！ こ、これが……凄い、まだ出る、止まら、ない……」
誾千代は繋がったまま、立っていられず崩れ落ちていった。
「これで思い残すことはない。明日からは私も貴様も、国を背負って生きていくのだからな」
元親の胸にもたれ、裸のままの誾千代が幸せそうにつぶやく。そんなしおらしい彼女を、元親は強く抱きしめる。
「ならばせめて、お前に凄絶に刻み込んだ、俺の生の証を忘れないでくれ」
誾千代は、コクリとうなずいた。口づけを交わす。ごく自然に、しかしもう、二度と重ならないかもしれぬ唇同士を。
この後、立花家は長崎を中心とした海運に積極的に乗り出す。そこに、あの一夜が影響していたかどうかは、誰も知る由がない。
完
この物語のヒロインたちは、以下の作品にも出ています
島津義弘×立花誾千代
源義経×立花誾千代
稲姫×誾千代
遠呂智の淫謀 立花誾千代編
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